研究課題/領域番号 |
20K03831
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 岳生 東京大学, 物性研究所, 准教授 (80332956)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / ゆらぎの定理 / マグノン / 量子ドット / カーボンナノチューブ |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、スピントロニクス分野の物理現象に対して、微視的な模型に基づく理論研究を展開し、(1) スピン軌道相互作用のある二次元電子系と強磁性絶縁体の接合におけるスピン共鳴の理論、(2) 近藤状態にある磁性不純物を介したスピンポンピングの理論、(3) スピンホール磁気抵抗現象におけるゆらぎの定理、について論文を出版した。これらの研究によって、磁性体と金属の界面におけるスピン流の微視的機構や新規物理現象の提案を行うことができた。今後の実験検証を強く期待したい。 さらにスピントロニクスとメゾスコピック系の境界領域の問題として、(4) スピン回転結合を利用したナノモーターの理論提案、(5) 量子ドット中の多電子スピン状態におけるスピン緩和時間の理論解析(実験との共同研究)、(6) 量子ラビ系を介した熱輸送の理論構築、などを行なった。特に(4), (5)の成果についてはPhys. Rev. Lett.誌で出版されており、プレスリリースも行っている。 高強度光パルスによる新しいスピントロニクス制御方法への道を探るための準備として、(7) GaAsにおける高次高調波におけるずり応力効果の解析、(8) GaAsにおける非摂動領域の高次高調波の理論の構築を行なった。これらの光との相互作用については、今後スピン流生成の新しい手法として用いることができると期待しており、現在研究を推し進めている。 この他に次の欄で記述するように、研究成果を5編のプレプリントとしてまとめることができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はその前年度からの研究活動が実を結んだ年であり、8編の論文を出版することができた。また未出版のスピントロニクス分野の研究成果として、(1) スピン軌道相互作用のある二次元電子系と強磁性絶縁体の接合におけるバーテックス補正と巨大ギルバート減衰、(2) d波超伝導体と強磁性絶縁体界面でのスピンポンピング理論、(3) 光浮上技術を用いたマイクロ磁性体におけるバーネット効果、がプレプリントとして公開されている。さらにメゾスコピック系物理との境界領域の研究成果として、(4) 量子ドット中の断熱ポンピングへの非断熱補正の計算、(5) BCSーBECクロスオーバーにおける非平衡ノイズを用いたプリフォームペアの検出、についてプレプリントを公開した。以上の論文はいずれも論文投稿中であり、近々出版されるものと期待される。さらに量子モンテカルロ法を用いたスピンホール磁気抵抗(SMR)の温度変化の数値計算について、現在論文を執筆中である。 以上の研究活動は当初の予定通り(もしくはやや予定より順調)となっており、充実した年度であったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、微視的模型を用いたバルクのスピン輸送理論について、特にスピン軌道相互作用のある2次元電子系を考察すると見通しがよいことがわかった。今後はボルツマン方程式とトンネルハミルトニアンの方法を組み合わせることで、スピン電荷変換現象についてより深い考察を試みていきたい。さらに熱スピン変換や低次元量子系へのスピンポンピングなどについても取り組みを始める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
従来の予定では、国際会議への参加や国内の学会・研究会への参加を予定していたものの、コロナウィルスの感染蔓延のため、対面での会議が軒並み中止となりオンラインでの開催となった。さらに海外の研究機関への短期滞在などを計画していたものの、これも実施困難となった。そのため旅費の支出が予定よりも少なくなった。次年度では国際会議・研究会などの対面開催が再開される見込みであり、成果発表や議論を効率的に行うため、次年度への繰越を行なった。
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