研究課題/領域番号 |
20K03833
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
村中 隆弘 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (70398577)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超伝導 / 空間反転対称性 / 臨界電流密度 / 上部臨界磁場 |
研究実績の概要 |
今年度は、空間反転対称性の欠如した結晶構造であるβMn型構造を有する超伝導体、W7Re13X(X=B,C)(Tc=7.2K, 7.3K)とMo7Re13X(X=B,C)(Tc=8.3K, 8.1K)、βMn型構造の類縁構造であるαMn型構造を有する超伝導体Re5.5Ta(Tc=8K)に着目した。これらの超伝導体は、空間反転対称性の欠如という構造的要因によって上部臨界磁場(Hc2)が10T以上と高められているため超伝導線材としての応用利用を見据え、ピン止め力の強化などによるHc2や臨界電流密度Jc特性の向上を目指した合成を進めた。具体的には、特定の遷移金属サイトに対して複数元素をランダムに占有させることでナノスケールの乱れをもらたす高エントロピー合金効果を導入することを期待した。 W7Re13Bについては、磁化測定法によってJcが100(A/cm2) (T=1.8K, H=0T)程度であることを明らかにし、Wサイトへ2種類以上の元素を導入することでJcを最大で100倍程度向上させ、Hc2は1重項超伝導の場合の限界値であるパウリリミット(Hp)を僅かながら上回ることが分かった。これにより、高エントロピー合金効果によって導入されたナノスケールの乱れによってピニング力が強化されるだけではなく、超伝導発現メカニズムに対しても影響が及んでいることが考えられる。 Re5.5Taについては他元素置換によるTcの向上には至らなかったが、格子定数の変化に対しTcが8Kを最大としてドーム状の依存性を示すことがわかった。我々はこれまでに、同じαMn構造超伝導体Re3Taが格子定数を小さくすることでTcが3Kから8Kにまで上昇することを見出しており、構造は同じであるが格子サイズの変化に対して対照的な変化を示すことは、本系の超伝導の理解に対して重要な示唆を与えるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在着目しているβMn型構造を有する超伝導体W7Re13X(X=B,C)(Tc=7.2K, 7.3K)とMo7Re13X(X=B,C)(Tc=8.3K, 8.1K)では、WとMoサイトに対して複数元素をランダムに占有させることでナノスケールの乱れをもらたす高エントロピー合金効果を導入できた。 これは、βMn型構造の超伝導物質としては世界で初めての成果であり、特にW7Re13Bの上部臨界磁場Hc2が高エントロピー合金効果によって、パウリリミットを僅かながら超える程度にまで上昇したことは、導入されたナノスケールの乱れはピニング力強化だけではなく、超伝導発現メカニズムに対しても影響を与える可能性があることを示す重要な成果である。 ただ、現時点では上部臨界磁場特性には大きな特性向上は見られなかったことから、この点については進んでいるとは言えないため、全体として本研究課題はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
βMn型構造を有する超伝導体W7Re13X(X=B,C)(Tc=7.2K, 7.3K)とMo7Re13X(X=B,C)(Tc=8.3K, 8.1K)については、引き続き高エントロピー合金効果を与える合成を進める。特にMoやWサイトのみではなく、Reサイトに対しても複数元素をランダムに導入することで、さらに大きなエントロピー変化をもたらすことが出来るため、超伝導臨界電流密度や上部臨界磁場などに対してより大きな特性変化をもたらすことが期待される。 さらに、類縁物質であるCr2Re3XB(Tc=4.8K)についても着目する。特に本物質は上部臨界磁場がパウリリミットを超える大きな値が報告されているため、空間反転対称性と物性との相関が非常に興味深い。そのため、これまでに本研究課題において得られた知見を基に、純良試料合成、超伝導臨界電流密度や上部臨界磁場の特性向上、高エントロピー合金化による新物質開発を目指す。 また、局所的な空間反転対称性の破れという観点からは、Reホウ化物や構造多形現象を示すRRh4B4などの超伝導体に着目し、構造の違いがもたらす超伝導特性の変化などへの理解を深め、局所的な反転対称性の破れの効果をもった新奇高温超伝導体の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、昨年度に引き続きコロナ禍における研究室内の密集状態を避ける対応を続けていたため、研究用物品の消耗が当初計画よりも少なかったことが原因の一つとして挙げられる。また、試薬消耗品に関しては、輸入しなけらばならない原材料金属の納期が通常よりも長くなってしまうことが予想されて年度内に間に合わないために、今年度での購入を見送ったものもあった。 また、共同研究や研究打ち合わせのための出張を控えたことや、学会がオンライン開催となったことなどにより、旅費を使うことが少なかった。 翌年度は、学会などで対面形式を控える対応が続く可能性も考慮して、当初計画よりも実験の効率化を図ることで実験実施数を増やして物品費として使用するとともに、論文発表などに係る英文校閲費用や投稿費用などに使用する計画である。
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