研究実績の概要 |
最終年度である今年度は、①空間反転対称性の欠如した結晶構造に起因して比較的高い上部臨界磁場(Hc2)を有すると考えられるβMn型構造超伝導体、W7Re13X(X=B,C)(Tc=7.2K, 7.3K)とMo7Re13X(X=B,C)(Tc=8.3K, 8.1K)、②構造多形間で大きなHc2の違いを示すYRh4B4超伝導体(pt型Tc=10.6K,Hc2=2.5T bct型Tc=9.8K,Hc2=9.85T)、③他元素置換濃度の違いで構造が変化するReホウ化物超伝導体(Re,TM)2B(TM:遷移金属元素)に着目した。 それぞれの研究成果は、①Wサイトに対して昨年度よりも多い複数の元素をランダムに置換させることに成功し、Tcを大きく下げることなくHc2や臨界電流密度(Jc)の向上を達成した。②pt型、bct型の2つの構造多形間の大きなHc2の違いを生み出す原因を超伝導対称性等の観点から明らかにした。③TM=Vのとき、Mg2Cu型構造のRe1.62V0.38BがTc=3.9Kの新超伝導体であることを発見し、他の遷移金属元素や濃度制御を行うことで、CuAl2型構造の新規超伝導体を発見した。 研究期間全体での研究実績としては、第一に、βMn型構造超伝導体としては初めて高エントロピー合金的な結晶サイトを有する超伝導体の合成に成功し、Hc2がパウリリミットを超える値を持つことから、高エントロピー合金効果によって超伝導発現メカニズムに対しても影響が及んでいる可能性を示唆する結果を得た。 第二に、Reホウ化物超伝導体(Re,TM)2Bにおいて遷移金属元素の置換濃度制御によって、Mg2Cu型構造だけでなくCuAl2型構造の新規超伝導体の合成にも成功したことで、ホウ化物における従来の価電子数制御に加えて構造制御による新超伝導体開発の道筋の一つを示した。
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