研究課題
本年度は強磁性層/重金属層からなる2層構造の細線で、細線に電流を流すことで重金属層から強磁性層に与えられるスピン軌道トルクを使って磁壁を効率的に駆動できる膜構造の検討を行った。強磁性層には{Tb/Co}多層膜を、重金属層にはPt層を用いた細線を作製した。強磁性層のPt層と接する界面原子をTb、Co半層分、およびCo1層分と変えた細線を用意した。これらの細線に磁壁を生成して、パルス電流を印加することで磁壁を移動させ、移動距離と電流印加時間から磁壁の移動速度を調べた。実験からPtと接する界面のCo層が厚くなるほど磁壁の駆動速度が速くなることがわかった。この結果から3d原子であるCoは4f原子のTbよりもスピン軌道トルクが磁気モーメントに与える影響が大きいと示唆されることがわかった。本研究課題ではスキルミオンと呼ばれる渦構造の磁区の安定化、及び高速移動の研究に取り組んだ。「強磁性層/非磁性層/強磁性層」からなる3層構造で、上下の強磁性層の磁化が反対を向く反強磁性結合では、渦構造の磁区が安定化して、電流方向に平行に駆動できることをマイクロマグネティックシミュレーションにより明らかにした。また、「強磁性層/非磁性層/強磁性層」構造の細線上の磁壁は、スキルミオンの安定化と関わるネール磁壁が安定できることを明らかにし、シミュレーションを使ってネール磁壁の安定化の原因を明らかにした。また、この3層構造で安定化したネール磁壁は、スピン軌道トルクによる駆動速度が向上することを明らかにした。さらに、強磁性層/重金属層の界面原子を変えることでスピン軌道トルクを使った磁壁の駆動を効率化できることを明らかにした。
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Journal of Magnetism and Magnetic Materials
巻: 565 ページ: 170218~170218
10.1016/j.jmmm.2022.170218