本研究では我々が独自開発した圧力下熱伝導率・比熱測定手法である3次元熱緩和法を発展させ1次相転移の観測を可能とすること、およびEu122系化合物(典型物質であるEuRh2Si2とその関連物質)における価数の不安定性について熱特性の観点から調べることが目的である。昨年度はEuRh2Si2の測定を完了し、加圧とともに反強磁性転移、価数転移、価数転移が消失する臨界圧力(約1.6GPa)を経て価数揺動状態へと変化する電子状態について網羅する形で熱伝導率、比熱の絶対値測定を完了できた。測定手法は緩和法を基にしているが温調法の工夫により温度ヒステリシスがある価数転移(1次転移)に対しても昇温降温両過程で比熱の発散を観測出来た。価数転移による比熱のピークおよび熱伝導率の不連続な飛びの様子は圧力によって大きく変化し、同じ価数転移でも様子が異なることが判明した。さらに1次転移で発生する急峻な吸熱(または加熱)ピークをシミュレーションを活用した手法で正しく解析することにより潜熱および磁気エントロピーSmを見積もった。結果としてEuRh2Si2の価数転移および価数揺動に関わるSmは室温でRln9に相当し、Euにおける価数の不安定性が4f電子のEu2価の8準位とEu3価の1準位のすべてを反映した9準位に関わるものであることが明らかとなった。前年までに測定済みのEuPd2Si2は常圧ですでに価数揺動領域にある物質であるが、比熱からは加圧とともに価数のゆらぎが広い温度範囲で緩やかに起こるように変化していく様子が明らかとなった。400KにおけるSmは常圧でRln9であったが、加圧とともにこの値から急減することが分かった。以上の研究により、Eu122系の多彩な電子様態について熱特性による評価が出来、現象に関わる4f電子状態について有力な情報を得た。
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