研究課題/領域番号 |
20K03840
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
杉本 貴則 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 講師 (70735662)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子スピン系 / クラスタ結合系 / 量子機能性 / トポロジー / 磁化プラトー |
研究実績の概要 |
本年度はまず、昨年度の研究で見出した三角スピンチューブ格子のクラスタ単位ホールデン状態の詳細な解析に取り組んだ。昨年度の研究から、本系では、カイラリティの自由度との結合を考えることにより、1/4スピン磁化に対応する特異な端状態が出現することがわかっている。そこで本年度は、これを拡張し、わずかな空間異方性を導入することにより、この端状態の安定性を議論した。この空間異方性は、解析的な予備計算から、有効的な双2次項の役割を果たすことが予想されていた。そこで、より精密な数値解析を、行列積状態変分法により実行したところ、端状態の安定化や(準)分数化の精度を上げることに役立つことがわかったが、一方で端状態の局在化には寄与しないこともわかった。通常、端状態の応用を考える場合には、この局在化が強い方が好まれるため、量子素子としての利用を考える際には、この点の更なる改良が必要である。1/4スピン磁化を持つ端状態の研究に関しては、論文にまとめ海外の学術誌に投稿済であり、空間異方性の与える影響に関しては国際会議のプロシーディングスとして発表した。 他方で、本系の相互作用を少し書き換えることにより、系のバルク状態に対しても、マクロな物理量に対する(準)分数化機構を発現させることができることを見出した。この分数化状態は、(擬)磁化プラトーと呼ばれる磁場誘起のスピン・ギャップ状態に対応し、磁化過程を測定することで容易に観測できる。また、この状態を発現させるために必要な相互作用は、2スピン間の双線形項だけであることも重要な点で、リング交換など高次の相互作用が必要ないことから、実験的な実現性が高い模型になっている。本研究成果は、現在より詳細な解析を進めており、早急に学術論文として発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、(i)クラスタ単位量子スピン系を用いて新たな量子機能性を探索し、(ii)その機能性発現に最適な量子系を提案すること、を目標にしている。昨年度の研究で、この2つの目標の理論的な部分を、より深く掘り下げて解析することで、実験的に実現可能性の高い具体的な模型を設定することができた。一方で、昨年度の時点でも今後の目標に挙げた、候補物質の選定やそれを対象にした、具体的な実験セットアップの提案にはまだ至っていない。これら実験可能な対象・セットアップを提案できていないという点で、総合的には現状、期待以上の成果にはつながっていないが、理論的な研究は当初の予定以上に進展しており、特に(擬)磁化プラトー状態など、本研究課題を始める前には予想しなかった結果にも繋がっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的の一つである「実験的に実現可能な」量子系の提案を達成するために、今後、物質合成や構造解析などを専門とする実験研究家とも議論を重ね、この候補物質探索により積極的に取り組む予定である。昨年度は、新型コロナ・ウイルス蔓延防止措置に伴う行動制限があり、研究会や学会の対面実施がほとんどなく、そのため実験研究者との新しい共同研究の可能性を模索する活動が大きく制限されていた。本年度はこの経験を踏まえ、より積極的に情報発信や直接的な共同研究の提案を行い、これまで考案した新しい量子機能性の実験的な実現への道筋をつける。 また、昨年度から理論的側面の課題として残っていた、キタエフ鎖模型やボンド交替模型など、異なるトポロジーを持つ模型を用いて、従来では考えられないような量子機能性の発現を、引き続き探索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染予防のため、参加予定であった学会や研究会が中止、もしくはオンライン開催に変更になったため、計上していた旅費が一切使用できなかったため。次年度以降、学会参加費や共同研究のための出張費として使用を見込んでおり、余剰分はより精度の高い計算を行うための計算機購入に充てる予定である。
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