本研究課題は、(i)クラスタ単位量子スピン系を用いて新たな量子機能性を探索し、(ii)その機能性発現に最適な量子系を提案すること、を目標にしている。一昨年度までの研究で、この2つの目標の理論的な部分については、当初の目標通り進めることができていた。より具体的には、新たな量子機能性として、従来の理論では予想できない様な端状態(1/4スピン磁化)や(擬)磁化プラトー状態などが出現するクラスタ単位量子スピン模型を理論的に提案し、行列積状態変分法などの新しい数値解析手法を用いて、この振る舞いを確かめた。さらに、昨年度は実験的な可能性について考察を深め、候補物質の選定やそれを対象にした、具体的な実験セットアップの提案を具体化することに取り組んだ。その結果、候補物質に要求される相互作用や構造をある程度限定することができ、さらに最近目覚ましい発展を遂げている量子計算機を量子スピン実験系として扱うことで、この量子機能性を実現できることを示した。本研究課題で得られた結果は、既に2本の論文にまとめ出版済みであり、その他に査読中と準備中の論文が各々1本ずつあり、これらも早急に出版できるよう進めている。さらに、当初予想していなかったスピン・クラスタが関連する研究として、別に2本の論文を出版することができた。以上より、本研究課題は当初の予定以上に進展した成果を示すことができた。他方で、本研究課題期間は、新型コロナ・ウイルスのパンデミックという未知の災害に見舞われた事によって、研究会や学会の対面実施がほとんどなくなり、そのため実験研究者との新しい共同研究の可能性を模索する活動が大きく制限された。このため、実験家との共同研究を進めることは残念ながら叶わなかったが、この点に関しては今後進めて行きたいと考えている。
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