研究課題/領域番号 |
20K03844
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
苅宿 俊風 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (60711281)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 原子層物質 / 物質設計 / 超構造 / 電子状態制御 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
電子バンド構造の人工制御は電子の運動や相互作用の制御につながりその特性を活かした新技術・新デバイスの開発を支える基礎となる。本研究はグラフェンに代表される原子層物質の人工積層によるバンド構造制御を実現するための理論研究である。特に現在注目を集めているナノスケールのモアレパターンを含むような非整合積層系を主題として研究を進めている。研究の方向性としては(i)積層構造による電子状態制御の理論の整備、(ii)物質設計、(iii)異方的バンド平坦化による新奇物性の探索、(iv)トポロジカル平坦バンドの探究、といったものとなっている。本年度は主に(ii)、(iii)に関連して前年度から引き続き角度非整合二層BC3の研究を発展させ論文として出版することができた。単層のBC3はグラフェンに類似したハニカム格子を持ち、そのバンド構造は3バレーの半導体となっている(バレー自由度は電子の運動量に関連した自由度である)。本研究ではBC3を角度非整合二層化することによりバレーに依存した電子状態の低次元化を引き起こせることを理論的に提案した。バレー依存性はバレー自由度の制御につながりバレートロニクスと呼ばれる新世代の電子デバイス応用の基礎となる可能性を秘めている。論文においては二層BC3の結晶構造の解析と電子状態のモデル化を第一原理計算に基づき行い、構築されたモデルを解析することによりバレー依存低次元化を示している。また同じく論文中では角度非整合系で相対角度が小さい極限では電子間相互作用が顕著になりそれによる新奇量子相が実現しうることも理論的に示した。 一般に人工積層系の実験状況においては基盤と対象物質の相互作用や非整合性が重要な役割を果たすことがしばしばある。それを踏まえ、(i)に関連し一般の多層系(各層の構造や相関の相互作用が自由に設定される)の電子状態を数値解析するためのプログラムを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずBC3系の論文の詳細をつめ出版に至ったことでひとつの区切りとすることができた。さらにBC3の関連物質の研究も進めており論文としてまとめる見通しもついてきている。また、関連の研究を進める中で一般の多層モアレ系を解析するためのプログラムを完成することもできた。一方学会発表等のアウトリーチについても社会情勢の変化に伴い海外開催の国際会議での発表も含め前年度までの遅れを取り戻しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
原子層物質の人工積層は現在もホットトピックであり続けているため、今後もこれまでの研究を継続・発展させていく予定である。その目的としては人工積層系における電子状態制御の理論の整備、新奇量子相や新規機能につながるような積層デザインの理論提案、などが挙げられる。またそれらの研究を進める中では基礎理論の構築や第一原理計算に基づく数値解析など必要に応じて手法の選択や開発を行い、研究が円滑に進むように試みる。 具体的な研究テーマとしては(1)BC3の研究の発展、(2)新物質探索、(3)hBN上の二層グラフェンの研究、といったものが挙げられる。(1)についてはBC3の類似物質の研究をすでに開始している。BC3の場合と同様二層系の結晶構造の解析や電子状態のモデル化を第一原理計算を援用しながら行い、BC3との類似点及び相違点について整理し人工積層系の電子状態制御一般の知見が得られるようにしていきたい。(2)に関してはすでにBC3を理論提案しているところであるがBC3はグラフェンの辺縁物質でありハニカム構造を持っている。今後は二次元物質のデータベース等を参照しながら異なる結晶構造を持つ系において興味深い現象の実現が可能であるかを探索する。(3)についてはまず前提としてhBNとグラフェンの非整合が電子状態の理解には重要であることが知られており関連する実験も多く行われている。本研究課題ではこれまでに一般の多層系を解析するプログラムの開発を完了しているので今後はそれを用いて実験を解釈するとともに新奇状態への展開の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は理論研究であり当初は旅費を中心とした予算計画となっていたが、社会情勢のため全体的に予算の執行が遅れ気味となっていた。2022年度には対面での研究会やワークショップが徐々に開催される様になってきたため国際会議での研究発表を含め遅れを取り戻すことができたが完全にとはいかなかったことから次年度使用額が生じた。以上に加え、計画当初の時点では課金が不必要であった所属機関の大型計算機について課金が必要となったため、次年度使用額は主に計算機資源の確保に充当する予定である。
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