電子のバンド構造をデザインすることは固体中の電子の運動を制御することにつながり、ひいては特異な量子状態を実現することや新規デバイスの開発にも発展し得る。本研究は2次元原子層物質の積層構造を工夫することでバンド構造の制御を目指す理論研究である。特に層間にわずかな非整合があるモアレ物質に着目し、研究期間全体を通じ主にその新物質の理論探索の面で成果をあげてきた。特に角度非整合二層BC3を非常に興味深い系として提案することができた。単層BC3はグラフェンの派生物質と考えることができハニカム構造を持つ。またそのバンド構造の特徴としては3つのバレーを持つことが挙げられる(ここでバレーとは電子の運動量に関連した自由度である)。本研究ではBC3の電子状態のモデル化とそれを用いた角度非整合二層BC3のバンド構造の計算を行い、積層角をパラメータとしたバレー依存のバンド構造の低次元化が起こることを示した。バンド構造の次元性は電子の輸送特性に重要な影響を及ぼすが、それがバレーに依存するためバレートロニクスと呼ばれる新世代のデバイス開発につながる可能性がある。 最終年度においてはまずBC3の研究の発展として類似物質のC3Nの解析を行った。その結果単層のバンド構造には共通点がみられるものの二層系のバンド構造は大きく異なることが示せた。またその要因としてBC3とC3Nの波動関数の違いが重要な役割を果たしていることも理論的に明らかとしたがこれはより広く物質探索を行うための基礎理論として用いることができる。さらに別方面の物質探索として正方格子モアレ系を実現するための物質探索を行い、その中で例えばZnCl2の電子状態及びモアレ系で重要になる層間結合の見積もりを行った。今後はこれらの研究を進め、制御性の良い正方格子を持つ強相関系をモアレ物質の枠組みで実現することを目指す。
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