研究課題
強相関凝縮系物理学では、極限環境や物質開発手法の発展に伴い、多様な秩序や状態を示す化合物が次々と発見されている。超高圧下高温超伝導、異方的超伝導、量子臨界、多極子秩序などである。これらの新奇状態の解明は新しい物理・技術への創出に繋がるため、大きな注目を集めている。本研究課題では、そのうち最近新たに理論的に提唱されている拡張多極子秩序状態の実験的実証と新たな拡張多極子系の探索を推進する。その典型例が、反強磁性状態で大きな異常ホール効果が観測されたMn3Ge、Mn3Snである。 異常ホール効果を利用した記憶素子として反強磁性体を利用することにより、高密度化・高速化が可能となるだけでなく、メモリの動作原理に関する革新的な進展が期待されている。なぜ強磁性でなく反強磁性状態で大きな異常ホール効果が現れるのかは謎であったが、最近、本申請の研究協力者である東北大金研鈴木通人氏は、6つのMnサイトでの双極子秩序が合わさって、一つの磁気八極子が現れることが本質的であるとする理論を提案した。Mn磁気イオンサイトは通常の双極子秩序だが、6つの中心の原子間位置に磁気八極子が現れ、これが強磁性体の磁気双極子と同じ役割を果たして大きな異常ホール効果が現れると考えるのである。この6つのMn3d軌道の寄与で構成される拡張多極子はクラスター拡張多極子と呼ばれ、従来の単一軌道多極子の拡張となっているが、理論提案が先行し実験的検証はこれからである。この拡張多極子は、異常ホール効果などを理解する新しい指標になるため、その検証が大きな注目を集めている。申請者は、URu2Si2やNpO2の多極子秩序をNMRを用いて解明してきたので、多極子秩序物理に精通しており、この新しい磁気八極子の重要性を即座に理解した。
2: おおむね順調に進展している
拡張多極子検証のため、その有力な候補物質の一つであるMn3Geの純良な単結晶育成を試み、良好な単結晶を得る条件をほぼ確定できた。NMR実験のためには、73Ge同位体濃縮試料を調製する必要がある。73Geは大変高価なため、試料育成の失敗は極力避ける必要がある。そのため、調製条件出しは非常に重要である。
まず、良好な単結晶を得る条件を完全に確定する。その後、73Ge同位体濃縮Mn3Ge試料を調製する。調整したMn3Geを結晶構造解析、EPMAで結晶性を確認する。良好な結晶性が確認できたら、磁化率と抵抗率で電子物性評価を行う。その後、73GeーNMR観測を試みる。
当初計画において令和2年度に予定していた、本研究で使用するプローブの製作について、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて令和2年度内に納入されることが困難となり、製作を令和3年度に変更したため、プローブ製作に係る費用が次年度使用額として生じることとなった。次年度使用額は、令和3年度分経費と合わせて、プローブ製作に係る費用及び実験に係る費用として使用する。
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Physical Review B
巻: 103 ページ: L100503 1-4
10.1103/PhysRevB.103.L100503