研究課題
本研究の目的は、最近、新しく提唱された拡張多極子秩序を微視的に検証し、拡張多極子物理領域を開拓することである。拡張多極子秩序は多原子や多軌道で構成される新しいタイプの電子系秩序である。拡張多極子秩序が実証されれば、多極子秩序の探索領域と多様な磁気秩序の可能性が飛躍的に広がり、電子物性研究に新たな領域が開かれる。スピントロニクス等への応用でも注目されている。拡張多極子秩序では非局所的な秩序が現れているため、磁性イオン自身の局所的情報だけではその秩序を検証できない。そこで本研究では、局所的対称性を決定する強力な手段である核磁気共鳴法(NMR)、ミュオンスピン共鳴法(μSR) を中心として、原子間、配位子原子位置の微小な磁場や電場勾配を測定することにより、拡張多極子秩序を検証法を世界に先駆けて確立し、それを用いて新たな拡張多極子物理領域を開拓する。今年度は、クラスター拡張多極子の有力な候補化合物であるURu2Si2の研究を行なった。この化合物ではT=17Kで隠れた秩序と呼ばれる、未だに同定されていない秩序状態が現れる。現在までの研究でその状態の対称性は空間群でいくつかの候補に絞られている。その候補をより絞り込むため、一軸圧下でRuサイトのNQR測定を行なった。それにより、より厳密に隠れた秩序状態でRuサイトの4回対称性が保持されていることを明らかにした。それにより可能な空間群はP4/nncかPI4/nmmが最も有望であることを突き止めた。上記の研究を遂行するため一軸圧下用の圧力セルを開発・整備し、その圧力校正も行なった。それにより精密に一軸圧を掛けてNMR/NQR実験を行うことができるようになった。このセルは他に化合物にも当然利用できる。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍で物品調達にやや時間がかかるが、研究は概ね順調である。今年度はURu2Si2で成果があがったので、来年度はそれを進展し、Mn3Si, MnGe3でも同様の成果が得られると期待できる。拡張多極子の理論的展開がこの2、3年で大きく進み、実験と理論を比較して色々なことが言えるようになってきていることも大きい。特に群論的手法を用いた、対称性による秩序状態の分類が大きく進展し、秩序状態の同定がより道筋だったものになってきている。
URu2Si2の隠れた秩序状態に関する研究は、今年度、一軸圧を[100]方向に掛けた実験を行ったので、来年度は[110]に方向に掛けた実験を行う予定である。この実験から、より多くの対称性に関する情報が得られる。今年度はゼロ磁場での一軸圧実験であったが、来年度は一軸圧、磁場下での実験を行う。この実験で、理論的にはクラスター多極子が同定できるはずである。Mn3Si, Mn3Geに関しては、Ge、SiーNMRによって同様にクラスター多極子の同定を試みる。
今年度はコロナ禍で部品調達に時間がかかり、年度内の納品が不透明な状況だったことから物品の購入を慎重に実施した結果、当初計画に比べて支出額が少なくなり、次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額は、次年度分研究費と合わせて、実験用の物品購入に係る費用として使用する。
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Physcal Review B
巻: 103 ページ: 100503-4
10.1103/PhysRevB.103.L100503
巻: 103 ページ: 085114-5
10.1103/PhysRevB.103.085114