研究課題
拡張多極子秩序は多原子や多軌道で構成される新しいタイプの電子系秩序である。拡張多極子秩序が実証されれば、多極子秩序の探索領域と多様な磁気秩序の可能性が飛躍的に広がり、電子物性研究に新たな領域が開かれる。拡張多極子秩序状態は強相関系特有の新しい状態であり、巨大異常ホール効果発現の指標にもなると期待され、スピントロニクス等への応用でも注目されている。拡張多極子秩序では非局所的な秩序が現れているため、磁性イオン自身の局所的情報だけではその秩序を検証できない。強相関 5f 電子系では、電子相関、スピン軌道相互作用、局在/遍歴競合が複合してもたらす多様な新奇電子状態を示す化合物が次々と発見されている。これらの新奇状態の解明は新しい物理の創出に繋がるため、大きな注目を集めている。そのなかでも URu2Si2 は特異な例である。この化合物は、異方的超伝導体であると同時に17Kで或る秩序相に相転移する。しかし、多くの測定手法を用いた膨大な実験的研究にもかかわらず、未だにこの秩序相 の秩序パラメーターが決定できず、”隠れた秩序 ”と呼ばれている。その解明のためには新しい物理モデルが不可欠であり、凝縮系物理学の重要課題のなかでも最も挑戦的なものとなっている。しかし、その同定は二十年来なされておらず、固体物理学の難問になっている。そこで今年度は一軸圧をかけて対称性を低下させて、それによってあらわれるより低次の多極子秩序を同定することにより、元の隠れた秩序状態を同定することを試みた。具体的には圧力セルを用いて、純良のURu2Si2単結晶試料で[100]方向に一軸圧をかけて、RuサイトのNQR測定をゼロ磁場で行なった。隠れた秩序転移温度が一軸圧下で上昇することを見出した。また内部磁場は生じないことも明らかにした。これにより隠れた秩序状態の空間群は絞られることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
2022年の半ばまでは、コロナ禍の影響を受けて実験に必要な物品の納入に滞りが発生して遅れが生じていたものの、2023年においては物品の納入状況も改善され、当初計画に近い形で実験を行うことができたため、おおむね順調に進展していると判断する。
2023年度もURu2Si2に一軸圧をかけて対称性を低下させて、それによってあらわれるより低次の多極子秩序を同定することにより、元の隠れた秩序状態を同定することを試みる。具体的には圧力セルを用いて、純良のURu2Si2単結晶試料で[100]方向に一軸圧をかけて、RuサイトのNQR測定をゼロ磁場で行なう。もし必要であれば一軸圧下での磁場下Si-NMR実験を遂行する。
2022年度においては、コロナ禍の影響により実験に必要な物品の年度内納入が不透明な状況だったこと受け、購入計画を見直し、状況が改善するであろう次年度に発注することとした。これにより物品購入に係る費用が次年度使用額として生じることとなった。次年度使用額は実験に係る物品購入費用として使用する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 92 ページ: 034704-1-6
10.7566/jpsj.92.034704
physical Review B
巻: 106 ページ: 235152-1-8
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