研究課題
今年度は、URu2Si2の拡張多極子の研究を行った。この超伝導化合物は17Kで隠れた秩序という未同定の秩序を示す。隠れた秩序はランク5以上の多極子秩序と考えられているが、最近の研究により、隠れた秩序状態の電子状態の対称性はいくつかの空間群に限られていることが分かっている。しかし、それらは同じ高い対称性を持つため、その区別は依然として困難である。そのため一軸圧力などの外場によって、隠れた秩序状態の対称性がどのように下がるかを見る必要がある。今年度は、一軸圧を[100], [110]方向にかけて斜方晶にしたときのRu-NQRの詳細な測定を実施した。その結果、斜方晶になることにより異方性パラメーターのイータが有限に現れること、その一軸圧依存は[100]と[110]方向で異なることを初めて見出した。また、[100]方向に一軸圧をかけた場合は、0.3GPa付近で反強磁性秩序が現れ、RuのNQRスペクトルが二つに割れるが、[110]方向に一軸圧をかけた場合は反強磁性秩序が現れず、RuのNQRスペクトルが二つに割れないことが分かった。これは、グルノーブルでの熱膨張係数測定の先行研究の実験結果と矛盾しない。これは、[100]に一軸圧をかけた場合はU-Uボンドがダイレクトに短くなるが、[110]に一軸圧をかけた場合はU-Uボンドがダイレクトには短くならないことに起因すると考えられる。また、Ruサイトの電場勾配は一軸圧で単調に線形に増大することが初めて分かった。線幅も同様に一軸圧で単調に線形に増大することが分かった。しかし[100]方向と[110]方向では増大の仕方が異なることも明らかになった。これらの結果は、中性子散乱の先行研究とコンシステントである。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍にあった過去3年間はサプライチェーンの停滞による物品購入計画の見直し等もあり、研究の進捗に遅れ生じたが、今年度においてはサプライチェーンの停滞も解消されたことから研究の進捗の遅れを取り戻し、当初計画に対して、おおむね順調に進展している。また、次年度も継続して研究が順調に進展すると考えている。
最終年度は、URu2Si2の拡張多極子の研究のため、一軸圧下でのSi-NMRを行う。NMR核である29Si同位体の自然存在比は約5%と小さいため、まず、強いNMR信号を得るために29Si濃縮単結晶試料を作成する。その試料を用いて、[100]と[110]方向の一軸圧下でSi-NMRを実施し、隠れた秩序下でSiサイトに内部磁場が現れるかを検証する。これにより隠れた秩序の秩序パラメーターの同定を目指す。
コロナ禍のサプライチェーンの停滞により物品購入計画の見直し等を行ったことが理由で次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額は、主に一軸圧実験用の物品購入に使用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Physical Review Letters
巻: 130 ページ: 196002-4
10.1103/PhysRevLett.130.196002
Science Advances
巻: 9 ページ: 2736-4
10.1126/sciadv.adg2736