研究課題/領域番号 |
20K03846
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
池上 弘樹 国立研究開発法人理化学研究所, 量子コンピュータ研究センター, 専任研究員 (70313161)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子相転移 / 超伝導・絶縁体転移 / ジョセフソン接合アレイ / BKT転移 / 量子光学的測定 / 電気伝導測定 |
研究実績の概要 |
量子相転移の性質の解明は、現代量子多体物理における重要な課題の一つである。量子相転移の代表として、超伝導と絶縁体の間の転移がある。この量子相転移は様々な系で見られるが、その相転移の詳細に関しては普遍的な理解には至っていない。本研究では、系のパラメーターを人工的に制御可能な人工量子多体系であるジョセフソン接合アレイを舞台として、超伝導-絶縁体間の量子相転移の性質を解明する事を目的とする。特に、電荷と磁束のダイナミクスを実験的に明らかにすることを目指す。 2021年度は、ジョセフソン接合アレイに対して電気伝導の測定と量子光学的測定を行った。さらに、これまで得られている実験結果の解析を進めた。EJ/Ec(EJ:ジョセフソンエネルギー、Ec:チャージングエネルギー)の値が小さい時に実現される絶縁体相においては、電流-電圧特性は、低温で、I=cV+bV^aというもので記述されることをこれまで実験で見出している。この特徴的な振舞いは、Berezinskii-Kosterlitz-Thouless(BKT)機構による絶縁体転移とクーロン斥力の遮蔽効果で理解出来る事を示した。 一方で、量子光学的測定においては、マイクロ波共振器中の単一光子とジョセフソン接合アレイを強く結合させる事により、ジョセフソン接合アレイの情報を単一光子の応答として観測するというcircuit-QEDの手法での測定を行った。特に、EJ/Ecを変化させた際に起こる超伝導‐絶縁体転移の臨界点付近でジョセフソン接合アレイのエネルギー散逸に起因する共振器中光子の減衰率の増大を観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子光学的測定と電気伝導の測定が順調に進展し、新しい実験結果が得られつつある。また、得られた実験結果の解釈も進展しており、超伝導‐絶縁体転移における電荷と磁束のダイナミクスが明らかありつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後、電気伝導測定と量子光学的測定を、EJ/Ecが異なるジョセフソン接合アレイに対し行うことにより、電荷と磁束のダイナミクスを実験的に明らかにする。これまでに電気伝導の測定により得られている電圧‐電流特性の非線形性を解析することにより、量子臨界点近傍の絶縁体相でBKT機構がどのような変更を受けるかを明らかにし、量子相転移点に近傍で素励起の動的性質を明らかにする。 量子光学的測定においては、これまで得られている共振器中に設置したジョセフソン接合アレイの光子減衰率のデータの解析を進める。共振器中の光子の減衰は、ジョセフソン接合アレイで起こるエネルギー散逸を反映しているため、光子減衰率の解析により、ジョセフソン接合アレイ中での磁束および電荷のダイナミクスにより生じる散逸の機構を明らかにする。超伝導相と絶縁体相、および量子臨界点近傍での特徴を抽出し、それぞれの相での磁束および電荷のダイナミクスを解明する。 ジョセフソン接合アレイに対して熱伝導現象測定を行い、素励起のダイナミクスを明らかにする。熱伝導現象測定では、電荷を持たない磁束のダイナミクスを観測する事も可能で、特に、量子臨界点近傍での磁束のダイナミクスが果たす役割を解明する。 上記の研究で得られた結果を速やかに取りまとめ、学会発表や論文発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 2021年度に度購入を予定していた熱伝導測定のセットアップに必要な機器(低雑音電圧アンプ)は、他の予算で購入したものを流用できる事になった。そのため、その予算を2022年度に整備する熱伝導測定のための周辺エレクトロニクスの購入に充てる事にした。 (使用計画) ジョセフソン接合アレイに対して熱伝導現象測定を行うためのトンネル接合温度計の作製、およびトンネル接合温度計による温度の高精度計測のための超低雑音測定系の整備に経費を使用する。2個のサンプルを同時測定できるようにすることにより実験の効率化を図る。そのために、超低雑音測定系を2セット整備するために経費を使用する。また、低温部に使用する金属部品の加工、超低雑音測定系の周辺エレクトロニクス作製、ジョセフソン接合アレイの微細加工のための消耗品のために経費を使用する。学会発表や論文発表を行うために経費や旅費に使用する。
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