量子相転移の性質の解明は、現代量子多体物理における重要な課題の一つである。量子相転移の代表として、超伝導と絶縁体の間の量子相転移がある。この量子相転移は様々な系で見られるが、その相転移の詳細に関しては普遍的な理解には至っていない。本研究では、系のパラメーターを人工的に制御可能な人工量子多体系であるジョセフソン接合アレイを舞台として、超伝導-絶縁体間の量子相転移の性質を解明する事を目的とする。特に、電荷と磁束のダイナミクスを実験的に明らかにすることを目指す。 2022年度は、ジョセフソン接合アレイに対してこれまで得られている電気伝導の実験結果の解析を進めた。特に、EJ/Ec(EJ:ジョセフソンエネルギー、Ec:帯電エネルギー)の値が小さい時に実現される絶縁体相において解析を進めた。絶縁体相では、低温では、電流-電圧特性がI=cV+bV^aで記述されることをこれまで見出している。この特徴的な振舞いはBerezinskii-Kosterlitz-Thouless(BKT)機構による絶縁体転移とクーロン斥力の遮蔽効果で理解出来る事を示し、さらに絶縁体相へのクロスオーバー温度を決定した。これらの結果より、絶縁体転移は、クーパー対の局在化によるもので、熱的に励起された準粒子の寄与は小さい事がわかった。また、温度-EJ/Ecに対する、超伝導-絶縁体の相図を完成させた。これらの結果をまとめたものはPhysical Review Bに掲載される予定である。 一方、量子光学的測定においては、マイクロ波共振器単一光子とジョセフソン接合アレイを強く結合させた系において、これまでに、超伝導‐絶縁体転移の臨界点付近で共振器中の光子の減衰率の増大を観測している。この結果を解析した。 また、これらの研究と並行して、磁束のダイナミクスを観測するために、ジョセフソン接合アレイの熱伝導を測定する準備を進めた。
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