令和5年度は最終年度であり、4年間の研究を振り返りながら総まとめを行った。本研究成果の普及のため、雑誌「固体物理」に解説記事を執筆した。銅酸化物高温超伝導体の長年の研究成果と課題をレビューし、本研究で明らかにしてきた軌道自由度の重要性を丁寧に解説した。 また、銅酸化物高温超伝導体とκ-ET系有機超伝導体の超伝導メカニズムを解析・比較し、強相関電子系におけるBCS-BECクロスオーバーの可能性を議論した。銅酸化物高温超伝導体は母物質の反強磁性絶縁体にホールドープすることで超伝導を発現するが、低ドープ領域での振舞いは高ドープ領域での振舞いと明らかに異なっており、ここでBCS-BECクロスオーバーが起きているのではないかという議論がある。これを受けて本研究では、まず関連物質であるκ-ET系有機超伝導体の解析を行い、相互作用の変化によってBCS-BECクロスオーバーの兆候(超伝導相関関数のドーム型の振舞い・化学ポテンシャルの大きな変化)が見られることを示した。次に銅酸化物高温超伝導体の低ドープ領域でも類似の振舞いが見られることを示し、両者でBCS-BECクロスオーバーが起こり得ることを示した。これらの成果は強相関電子系におけるBCS-BECクロスオーバーの研究の進展に大きく貢献すると期待される。以上の成果を強相関電子系の国際会議SCES2023でポスター発表し、Best Poster Awardを受賞した。 4年間の研究を通じて銅酸化物高温超伝導体における軌道自由度の重要性を明らかにし、更なる理解を深めると共に有機超伝導体との密接な関係も明らかにすることができた。計算手法として用いた変分モンテカルロ法の開発・改良も進み、より複雑で大規模な計算が可能になった。
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