研究課題/領域番号 |
20K03849
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
渡辺 孝夫 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (40431431)
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研究分担者 |
藤井 武則 東京大学, 低温科学研究センター, 助教 (80361666)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / 銅酸化物 / 電子相図 / 擬ギャップ / コヒーレント温度 / プリフォームドペア / 磁気輸送特性 |
研究実績の概要 |
銅酸化物高温超伝導体の真の電子相図(擬ギャップの開始温度T^*、超伝導揺らぎの開始温度T_scfや電子系の散乱が抑制されるコヒーレント温度_Tcohのドープ量(p)依存性)を明らかにすることは、超伝導機構解明のために重要である。そのために、PbドープBi-2212単結晶に対する酸素量制御を行い、最適ドープ付近からオーバードープ(p ~ 0.23)まで幅広いドープ量の制御に成功した。得られた結晶の面内及び面間抵抗率測定から、これまでになく詳細な電子相図が明らかになった。i)従来の擬ギャップ温度(T^*)に加えて、面間抵抗率が底を打って急上昇に転じる温度と、面内抵抗が大きく減少に転じる温度があり、両者は一致(以下、T^**)することを見出した。従って、T^**は、新たな擬ギャップの開始温度と考えられる。さらに、T^**はp > 0.19で超伝導揺らぎの開始温度に近づいた。このことからT^**は、前駆クーパー対(プリフォームドペア)形成の温度と考えた。ii)また、面内抵抗の温度依存性の解析から、電子系がコヒーレンスを獲得する温度(T_coh)の観測に成功した。T_cohは、その相図上の現れ方が理論モデルによって異なることから、超伝導機構解明の鍵と考えられている。しかし、報告例が非常に少なく、その観測が待ち望まれていた。得られたT_cohは、従来のいずれの理論モデルとも異なるドープ量依存性を示した。このことは、銅酸化物高温超伝導体の電子相図を矛盾なく説明するためには、新しい理論モデルが必要であることを意味している。以上の結果を論文にまとめ、投稿(PRLの予定)する準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、PbドープBi-2212単結晶の酸素アニールによるドープ量の制御に成功し、最適ドープ付近からオーバードープ(p ~ 0.23)までの詳細な電子相図が明らかになった。特に、面間抵抗率と面内抵抗率の比較から、新たに前駆クーパー対(プリフォームドペア)形成に伴う擬ギャップ温度(T^**)を見出したことは、予想以上の成果である。一方、予定していた高温側の電気抵抗率の測定に関しては、装置の立ち上げ中である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、昨年度新たに見出した、前駆クーパー対(プリフォームドペア)形成に伴う擬ギャップ温度(T^**)や電子系がコヒーレンスを獲得する温度(T_coh)を確実なものとする目的で、磁気抵抗、ホール係数や室温以上の高温での電気抵抗測定などを開始する。また、昨年度育成に成功したアンダードープになりやすいPbドープBi-2212単結晶の輸送特性評価を進める。p = 0.22以上の過剰オーバードープについては、オゾンアニールを用いた研究を東大物性研との共同研究で開始する。令和4年度は、令和3年度で残された測定を行うとともに、得られた結果を論文に纏め、学会や国際会議で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、コロナ禍のため出張旅費などの出費が抑えられた。一方で、本研究のような実験研究の場合、突発的な装置故障などによる出費に常に備えておかなければならないため、助成金の使用は極力節約に努めた。そのため、次年度使用額が生じた。 また、令和3年度の分担金を見直して40万円とする。その理由は、以下の通りである。磁場の影響を受けないキャパシタンスセンサーを用いた精密な磁気抵抗効果の測定に関しては、分担者と密接に協力して行っている。しかし、昨年度後期に分担者が用いていた温度コントローラーが故障し、測定不能になった。修理も難しいことから、新品を購入する。そのための代金を分担者と折半することとした。
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