研究課題/領域番号 |
20K03850
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
横山 寿敏 東北大学, 理学研究科, 助教 (60212304)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 不均一効果 / 強相関電子系 / フィリング制御型モット転移 / 反強磁性状態 / 常磁性状態 / ハバード模型 / 絶縁体化 / 変分モンテカルロ法 |
研究実績の概要 |
銅酸化物超伝導体で起るようなフィリング制御型モット転移(FCMC)、すなわちモット絶縁体に電荷キャリアを化学的にドープした(伝導領域で電荷中性が崩れた)場合、ドープ率が有限値で絶縁体から(超)伝導体に変わる転移、がどのような機構で起こるのかを、変分モンテカルロ法により明らかにすることがこの研究の第一の目的である。また、平行して研究していた光励起などによる電荷中性を保ったまま電荷キャリア(ダブロンとホロン)を導入した場合との差異を調べる。 令和4年度の計算で、電荷中性を保って電荷キャリアを注入した(光励起などの)場合、ダブロン濃度が14%以下では反強磁性相が安定で、常に絶縁体であることが解った。これと平行して行った化学的ドーピングに対する不純物効果の計算で、一体部分の最適化により不純物効果を制御する試行関数の利点が判り、令和5年度はこの波動関数を用いて大規模な本計算を行った。具体的には、この波動関数をフラストレートした2次元正方格子上の不純物ハバード模型に適用し、化学的ドープをした反強磁性状態と常磁性状態(正常状態)に対して、以下の変数を変えて不純物効果を詳細に調べた:化学的ドープ率(δ)、不純物濃度(δ-imp)、相互作用強度 (U/t)、不純物ポテンシャルの大きさ(V/t)、フラストレーションの強さ(t’/t)。 年度内に計算はほぼ終了し、現在、成果を論文にまとめている。最重要な結果として、様々な変数空間における詳細な相図を得た。要点は、(i) V/t の符号が重要で、V/t<0(引力的)だと、常に状態は導体であり、FCMCは起こらない。(ii) 不純物濃度とドープ率の比ρ(=δ-imp/δ)が重要な変数で、ρ<1の場合は常に導体である。(iii) 大体0<V<U で1≦ρ≦ρ-perc(パーコレーションの起こる値)の場合にFCMCが現れる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
進捗状況は、当初の計画より大きく遅れており、今回計画を1年間再延長することになった。研究の遅れは、予想外の複数の大きな障害が連続して発生したことに原因がある。まず、研究の初年度始めからいきなりコロナ禍によってこの研究に携わる4人全員の教育の負担が倍増し、最初の2年間は研究に割ける時間がほとんど無くなってしまったこと。また、初年度から3年間は出張や講演などの活動に制限があり、共同研究者との議論や意思疎通が十分できなかった。さらに追い打ちを掛けて、令和3年2月と令和4年3月の二度に渡り宮城県地方が震度6の大地震に襲われ、研究室や自宅で書棚、計算機棚やその他什器が倒壊するなど、研究代表者個人としては先の大震災以上の被害を被り、その復旧に実質的にそれぞれ何ヶ月もの期間が必要であったことが原因である。 これらの遅延は研究計画自体が問題な訳ではなかったので、これらの災禍がほぼ収まった令和5年度からは当初の予定通り研究を進めており、超伝導状態以外の研究成果はほぼ出すことができた。ただ、当初の遅れの幅が大きかったため1年の延長では収拾がつかず、超伝導状態については令和6年度に渡って集中的に取り組み、年度内に計画全体を仕上げる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在の進捗状況は「研究実績の概要」で書いたが、第2年度までに達成できると考えていたところまでほぼ進んだ状況である。まず研究実績の欄で述べた、反強磁性状態と常磁性状態の研究の成果をまとめた論文はほぼできあがっており、共著者(研究協力者)との意見交換後早々に投稿予定である。その後の研究方針として、まず、(1)超伝導状態のおける不純物効果について計算を行う。これは今回の論文内容の延長線上にあって既にパイロット的な計算は行っており、計算は円滑に進められるであろう。次に (2)フィリング制御型モット転移を同定するための物理量として、これまでの研究では運動量分布関数の連続性を調べていたが、より直接的な指標として、ドゥルーデ(超流動)重みおよび局在長を調べる計画である。さらに、(3)模型のパラメーターが競合する領域でも安定した波動関数を得るために、不純物サイトとホストサイトを区別する精緻なパラメーター化を行う。(1)の研究で、当初予定の最低限の目標が達成できるが、(1)と同時に(3)を進めることも考えられる。また(2)の課題についてもできる限り研究を進めて行く。 計算量が増大することが予想されるため、引き続き小林憲司、渡邉努、小形正男の三氏に研究協力者とし参加してもらう。従前の計画通り、研究の方向性や定式化を横山が主に検討し、計算は横山、小林氏、渡邉氏の三人が分担して実行する。その結果を持ち寄って、小形氏を含めて検討し成果をまとめる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍と地震の被害の影響が長引き、特に旅費の使用が大幅に減ったため、当該助成金が発生した。計画を円滑に進めるため、助成金は次のように使用する計画である。 (1) 物品費:この研究計画以前に導入された計算機も活用する計画だったが、この一年で予想外に多くの計算機が故障して使用不能に陥った。そこで残りの助成金で、今年度の計算用として、2台の数値計算用計算機作成のための部品を購入する(40万円程度)。(2) 旅費:計画期間が延びたため、令和6年度も研究協力者との打ち合わせを行うため、東京および千葉への出張を数度行う予定である(15万円程度)。また、成果発表のため、秋の物理学会に出席する予定である(10万円弱程度)。(3) その他:JPSJに投稿予定の論文の投稿料(長い論文なので超過分)として支出する必要がある(5万円程度)。
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