本研究では対称性の複合的な破れに伴う新しい物性応答の起源としての奇パリティ磁気多極子秩序に着目し、その新しい物性をマクロな物性応答として検出することを目的として研究を進めてきた。最終年度ではこれまでに行ってきた研究をもとに物質探索および物性評価の研究を進めた。本研究における顕著な成果として(1)MnTiO3における方向二色性の発見、(2)MnTiO3における方向二色性を利用した反強磁性ドメインの可視化とドメインダイナミクスの評価、(3)Ba3Fe2O5Cl2における電気磁気効果の発見、(4)有機・無機ハイブリッドペロブスカイトにおける方向二色性の発見、が挙げられそれぞれ原著論文として報告した。(1)および(2)ではアキラルな構造を持つ反強磁性体であるMnTiO3の反強磁性秩序相において方向二色性が現れることを発見し、その方向二色性を利用することで反強磁性ドメイン構造を可視化し、電場や磁場印加に伴う磁壁のダイナミクスを明らかにした。(3)では564Kという高い磁気転移温度を持つBa3Fe2O5Cl2がマルチフェロイクスとしての特性を示すことを発見し、放射光X線や中性子線を用いた回折実験も行うことで、電気磁気結合の微視的な起源についても明らかにした。最終年度ではFeを置換した物質の単結晶育成を行い研究を進めた。(4)では比較的低温かつ簡便なプロセスでの合成が可能でありながら、優れた太陽電池材料としての光学特性を示す有機・無機ハイブリッドペロブスカイト系化合物において、キラル分子を用いて反転心を持たない磁石の材料設計に成功し、方向二色性を発現させることに成功した。
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