研究課題/領域番号 |
20K03854
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三宅 厚志 東京大学, 物性研究所, 助教 (10397763)
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研究分担者 |
青木 大 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30359541)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メタ磁性転移 / UTe2 / 超伝導 / 強磁場 |
研究実績の概要 |
本研究では、スピン3重項超伝導におけるメタ磁性転移と超伝導の関連性を明らかにすることを目標としている。本年度はUTe2に着目し、パルス磁石を用いて(1)電子比熱係数の磁場・磁場角度依存性、(2)メタ磁性転移における異方的な磁歪を明らかにした。(1)パルス磁場中で磁化と磁気熱量効果(MCE)の同時測定を行い、磁化の温度・磁場依存性、正確な磁気相図を決定し、熱力学の関係式を用いて、電子比熱係数の磁場依存性を求めた。磁場b軸方向では、メタ磁性転移で電子比熱係数が不連続に減少、c軸に約28度傾けた磁場方向では、b軸とは逆に不連続に増大することを明らかにした。この結果は、b軸方向の磁場ではメタ磁性転移によって超伝導相が抑制されるが、b軸からc軸に30度ほど傾けると、メタ磁性転移に伴い超伝導相が再出現することと関連していることが分かった。なお、キャパシタンス温度計の開発、上記の研究は強磁場フォーラムフロンティア奨励賞受賞、複数の招待講演など、高く評価されている。この手法開発により、今まで困難であった磁場掃引時の試料温度変化が評価できるようになり、より定量的な温度依存性の議論を可能にした重要な技術発展である。(2)物性研で開発されたFBG(Fiber Bragg grating)光ファイバーと光フィルターを用いた磁歪測定法により、b軸磁場方向での各結晶軸方向の線磁歪測定を行った。メタ磁性転移に伴う、異方的な線磁歪、負の体積磁歪を明らかにした。現在、この結果を論文としてまとめるとともに、超伝導相がメタ磁性転移によって誘起される磁場方向での磁歪測定を進めている。また、温度の同時測定にも取り組んでおり、熱力学的にメタ磁性転移の起源、超伝導との関連性を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はパルス磁場中での磁気熱量効果(MCE)と磁化の同時測定により、UTe2におけるメタ磁性転移近傍での電子比熱係数の磁場変化の詳細を調べた。さらに、磁歪測定を行なった。同時測定によって、磁化の正確な磁場・温度変化を明らかにできた。これらの結果を熱力学的に解析し、メタ磁性転移で超伝導転移が消失するb軸磁場印加では電子比熱係数が減少し、超伝導が再出現する[011]磁場方向では電子比熱係数が増大することを明らかにできた。パルス強磁場中で、物理量測定時に試料温度を同時に測定した研究例は今回が初めてである。以前に我々が報告した論文では、磁場発生時の温度を測定温度として解析をしていたが、その方法では問題があることを明確にできた。今回開発した新しい手法で解決、訂正できたことは重要である。また、磁場中での試料の温度変化を考慮した定量的な解析を行えるようにしたのは大きな進展であり、パルス強磁場中での実験研究手法開発としても重要な成果と言える。また、この実験によってUTe2では大きな磁気熱量効果を示すことが明らかとなったため、予定していた磁歪測定の実験方法についての検討が必要となった。予定していたキャパシタンス法では真空中、つまり断熱条件で測定する必要があるために、MCEの影響が顕著になる。解析のためには、なるべく等温過程に近い液体ヘリウム中での測定が望ましい。その方法として、FBG付き光ファイバーを用いた磁歪測定を行なった。b軸磁場印加で縦、横磁歪の同時測定、各結晶軸方向の線磁歪の測定にも成功し、目標としていた体積磁歪の情報を得ることができた。熱力学的な解析、圧力効果との比較を行い、論文にまとめている。このように概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はUTe2との比較のために、URhGeの電子比熱係数の磁場変化の磁場方向依存性を明らかにする。URhGeはメタ磁性転移磁場(Hm)付近にリエントラント超伝導が現れる。磁場角度を変えても、超伝導相はHm近傍で観測されている。一方、UTe2では磁場方向をb軸からc軸へ傾けることで、Hmが増大し、Hm近傍での超伝導相が大きく変化する。b軸磁場方向では磁場印加で安定化する超伝導がHmで消失し、[011]方向付近では、Hm以上で超伝導相が再出現する。磁場b軸方向ではHmで電子比熱係数が不連続に減少、[011]方向では不連続に増大すること、つまり、電子比熱係数が増大することで超伝導転移が安定化することが分かった。UTe2、URhGeの比較を行い、類似点、相違点を明らかにし、メタ磁性転移と超伝導転移の関連性を明らかにする。 UTe2においては、メタ磁性転移に関する詳細は未解明な問題点が多い。今後は、磁歪測定に注力した研究を展開していく。b軸磁場印加によって、Hmで不連続な負の体積磁歪を観測した。この負の磁歪はUTe2のHmや磁化率の圧力依存性と一致しているが、他のメタ磁性体のHmで観測された正の体積磁歪とは異なる。また、各結晶軸方向の線磁歪から線磁歪の平均を差し引くことにより求められる異方的磁歪(AMS)に着目する。磁場b軸方向では、a軸のAMSはほとんどないものの、b軸、c軸ではAMSはお互い逆符号で同程度の大きな変化を示し、bc面内に格子不安定があることを示唆する。今後はAMSの角度依存性を明らかにし、その格子不安定性とHm近傍での超伝導相との関連性を明らかにしていく。UTe2、URhGe両者の比較を行い、常磁性、強磁性超伝導、メタ磁性転移の類似、相違点を明らかにし、スピン3重項超伝導の発現機構に迫る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、年度末に現地開催予定であった日本物理学会が、急遽オンライン開催になったために、旅費として使用できなかったためである。その未使用助成金は本年度発表した論文をオープンアクセス化するのに使用し、より一層の情報発信に活用する。
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