研究課題/領域番号 |
20K03855
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 雄介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20261547)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カイラル磁性体 / カイラルソリトン / 量子性 / ジャロシンスキー守谷相互作用 / ペロン・フロベニウスの定理 / スピン・パリティー効果 / 結晶運動量 / ベリー位相 |
研究実績の概要 |
カイラル磁性体は、平衡状態において磁気構造(磁気モーメント、スピン)が空間的にらせん構造を取る磁性体である。そのらせん構造の外部磁場に対する依存性は、ジャロシンスキーによって見出された特異な連続相転移を伴うものである。これまで古典スピン模型を用いて解析され、また実験結果と比較されてきたこの現象の量子性について本研究では厳密対角化法などの数値的手法と保存量に関する考察、解析的な近似計算によって明らかにした。2022年度の主な成果は、ジャロシンスキー守谷相互作用とゼーマンエネルギーのみから構成されるスピン鎖において、大きさSのスピン系において、高さf(=1,2・・・2S)のソリトンの最低エネルギー状態は結晶運動量k=πfの関係があることをジャロシンスキー守谷相互作用とゼーマンエネルギーのみから構成されるスピン鎖(DH模型)をソリトン数の固有空間に射影した模型(projected DH模型)において厳密に示したことである。スピンSの系では2S通りの高さのソリトンが存在し得るが低エネルギーに現れるソリトンは最大の高さf=2Sのソリトンであり、その数が変化するのが磁化過程であることが明らかになった。その結果整数スピンでは磁化過程でソリトン数が変化しても結晶運動量はゼロであるのに対し、半奇整数スピンでは磁化定でソリトン数が変化するたびに結晶運動量がπだけ変化する。交換相互作用が入るとソリトン数がよい量子数でなくなるために、結晶運動量の変化を伴わない、整数スピンの磁化過程は連続変化(クロスオーバー)になるのに対して、半整数スピンの場合には結晶運動量の変化を伴う準位交差における不連続性を伴う。カイラル強磁性体の磁化過程における、半奇整数スピンと整数スピンの違いは、ソリトンの高さの偶奇性と結晶運動量の関係、最大高さのソリトンのみが低エネルギーに寄与することに起因することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究自体は順調に進展しているが、国際会議での発信という点で予定よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
国際会議での成果発信(5月ICSM, 7月SCES、8月StatPhys)を目指す。 新たに共同研究者を加え、反強磁性カイラルにおけるスピンパリティー効果の有無、出現条件を明らかにする。半古典理論(Sが大きいときに妥当となる理論)による結果と物理的描像の比較を行い、大きいSから小さいSまで、交換相互作用がジャロシンスキー守谷相互作用のより強い領域から弱い領域までの全体にわたりカイラル磁性体におけるスピンパリティー効果の統一的理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までに得られた成果を国際会議(ICSM, SCES)における口頭発表により発信する。
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