研究課題/領域番号 |
20K03856
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
川本 正 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (60323789)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | モット絶縁体 / 反強磁性 |
研究実績の概要 |
beta-(BEDT-TTF)TaF6はドナーとアニオンが1:1であり、ドナーが二量体構造をとらずにユニフォームスタック構造をもつ真性モット絶縁体である。ドナーの分子長軸方向への大きなスリップ距離のためスタック方向とカラム間方向のトランスファー積分がほぼ同じである。さらに対角方向の分子間距離が非常に大きなため、対角方向のトランスファーがゼロとなり、四角格子構造を実現している。この物質の基底状態がネール温度10 K程度の反強磁性秩序であること、磁化容易軸がカラム間方向である。この物質の抵抗測定は高い抵抗値のためきちんとできていなかった。微小電流を測定できる装置を用いて、電圧印加で電流測定を行うことで抵抗率が室温で5 X 10^5 Ohm cmであることを明らかにした。また、温度依存性において、室温近傍では熱活性化型で振る舞うことを見出し、アレニウスプロットからギャップEgが0.55 eVと大きいことを明らかにした。 過去にzeta-(BEDT-TTF)PF6というもう一つの真性モット絶縁体が報告されている。beta-TaF6とよく似た構造だが、ドナーが分子短軸方向にスリップしているためbeta''型とみなせる。報告されている結晶構造に基づいてバンド計算を行ったところ、カラム間方向のトランスファーが大きく1次元系とみなせることが明らかになった。この物質が反強磁性秩序ではなく、スピンーパイエルス転移を示すという事実をうまく説明できる。beta-TaF6がzeta-PF6と異なり反強磁性秩序をとることは四角格子構造によることを明らかにした。。zeta-PF6の反射スペクトルからBEDT-TTF分子のオンサイトクーロン反発U = 0.82 eVが報告されている。この値とbeta-TaF6のギャップEgからバンド幅はW = 0.27 eVと見積もられ、U/Wが大きいことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスによる影響は無視できない。実験が遅れているが、2種類の真性モット絶縁体の基底状態が異なる原因を明らかにできたことは重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
真性モット絶縁体におけるモット転移の観測や超伝導発現の有無を明らかにすることを目指して、圧力下での実験を行う。また、溶媒分子とアニオン分子が乱れた構造をもつ三角格子構造の有機超伝導体kappa_L-(BEDT-TTF)2Cu(CF3)4(TCE)の超伝導相にFFLO状態が実現している可能性を見出している。磁気トルク測定によりこれを明らかにする。他にも強相関絶縁層(電荷秩序層)が挿入された有機超伝導体kappa-alpha-prime-(BEDT-TTF)2M(CF3)4(TCE)の伝導シート間の電気伝導がコヒーレント(バンド伝導)かインコヒーレント(トンネル伝導)かを明らかにするために、磁気抵抗の角度依存性の実験を行なっていく。
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