異方性の強い三角格子を有するkappa-(BEDT-TTF)2TaF6は、BEDT-TTF分子の二量体(ダイマー)間のトランスファー積分が1次元鎖よりであるにも関わらず、1.6 Kまでの測定で常磁性のままであることが分かっている。この物質の電気抵抗は室温から半導体的な振る舞いを示すが、220 K付近にキンク構造が見られていた。このキンクの原因を明らかにするために、低温でのX線回折の実験を行ったところ構造相転移が起きていることを見出した。四軸回折計による測定により0k0のブラッグスポットが220 K以下でa*軸方向に沿って2つに分裂することを明らかにした。この結果から、室温でC底心単射晶の格子から低温で三斜晶のドメイン構造への構造相転移と考えられる。低温で空間群P-1を想定すると、結晶学的に独立な分子はドナー(BEDT-TTF分子)が1分子から2分子へ、アニオン(TaF6分子)が0.5分子から1分子へと増加することになる。対称心の位置から、独立なドナーA分子とB分子がA-AダイマーとB-Bダイマーを形成することになることが予測される。イメージングプレートを用いた115 Kでの測定により双晶の構造解析を試みたところ、上記の予測が正しいことを明らかにできた。2つの独立なダイマーが形成されることから電荷の偏りの可能性が示唆されるが、ドナー分子の結合距離の比較からは明らかにできなかった。低温構造に基づいて計算したトランスファー積分からは、複数種の異方的な三角格子が配列している複雑な状態であることが見出された。
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