研究課題/領域番号 |
20K03858
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山川 洋一 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (60750312)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ネマティック / ボンド秩序 / 多体相関 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
本年度は、鉄系超伝導体FeSeにおけるネマティック転移と、その揺らぎの発達に起因した物理に着目した。非磁性のネマティック転移は、平均場近似レベルの理論では説明できず、本質的に多体相関が重要である。しかし、多体相関を考慮した際の相転移の理論は未整備であった。そこで本研究では、多体相関を考慮した相転移に関する理論的な定式化を行い拡張された相転移理論を構築した。得られた理論をFeSeに適応し、相転移前後のネマティック感受率の振る舞いを説明したほか、実験で観測されているフェルミ面の消失などを非常によく再現することなどを明らかにした。さらに、BaNiS2のネマティック状態の起源を解明した。BaNiS2はバンド分散が線形に交差するディラック電子系である。近年、走査型トンネル顕微鏡(STM)測定よりフェルミ準位近傍で電子状態は結晶と同じ4回回転対称性を保つが、有限のエネルギー領域で2回回転対称性に落ちるという、奇妙な振る舞いが観測された。そこで、第一原理計算に基づいた多軌道ハバード模型に、高次の電子間相関を表すバーテックス補正を考慮し、BaNiS2のネマティック相転移の可能性を議論した。その結果、ディラック分散間でスピン揺らぎが存在し、さらにそのスピン揺らぎが干渉を起こすこと、さらにはボンド秩序に起因したネマティック転移を起こすという機構を明らかにした。このボンド秩序のフォームファクターはディラック分散では対称性からゼロだが、フェルミ準位の上下にあるバンドのエネルギー分散を変更することでエネルギーの利得を稼ぐ。得られたネマティック秩序下でのバンド分散は、STM測定による準粒子干渉の結果と非常によく整合する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の木庭は、ネマティック秩序と呼ばれる電子系の自発的な回転対称性の破れの起源と、その秩序相近傍で発達した揺らぎがもたらす非自明な物理現象の理解である。これまでの研究により、ハバード模型に基づく微視的多体相関計算手法の発達に加え、ネマティック転移を拡張されたGinzburg-Landau理論という形で定式化することができた。また、BaNiS2においては、有限のエネルギー状態における電子の異方性獲得という、新しいタイプのネマティック転移が実験的に発見され、本理論から非常によく説明できることを見出した。さらに、カゴメ格子超伝導体においては、ネマティック揺らぎが非自明な永久自発電流をもたらす事、さらにはその電流が時間反転対称性を破り、ボンド秩序との協力により磁場と強く結合するという、興味深い現象が明らかとなりつつある。加えて計算手法開発の面でも、多体電子相関を考慮したネマティック相転移の計算に加え、バーテックス補正の無限級数和による高次相互作用の直接計算手法の開発などが進展し、様々な物理現象を計算できるようになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を通して、様々なネマティック転移の実現には、平均場近似を超えた多体電子相関が重要であることを明らかにした。今後の研究としては、その発達したネマティック揺らぎに起因した、超伝導やカレント秩序、さらに非フェルミ液体的挙動を明らかにする。これまでに開発してきた高次バーテックス計算を用いて、鉄系超伝導体・銅酸化物・ニッケル酸化物における量子臨界点近傍での有効質量増大や電気抵抗の非フェルミ液体的振る舞い、高温超伝導の発現機構を議論する。具体的には、バーッてクス補正を含んだ規約な相互作用の無限級数和から有効相互作用を計算し、正常・異常自己エネルギーから有効質量、ダンピング、超伝導転移を計算する。また並行して、カゴメ格子超伝導体の研究を進める。特に昨年度は、時間反転対称性と回転対称性の破れに関する報告が相次ぎ、一方で実験毎で異なる結果が出るなど、大きな議論となっている。カゴメ格子超伝導体におけるボンド秩序・カレント秩序・超伝導間の相関や、顕著な外部磁場や圧力依存性などの起源を明らかにする。加えて、これまでに得られた成果を学会等で発表するとともに、論文として取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前々年度にコロナで学会等の出張が完全になくなったため、その分の差額が繰り越されている。また、限られた予算を最大限効率よく使用するため、計算機サーバは完成品を購入するのではなく、各パーツを集めて自身で組み立てたため、支出の軽減に成功した。得られたサーバは、現所属研究室のサーバの中で、最も計算が高速である。次年度使用額は、本年度の国内外での学会旅費、および研究成果をまとめるためのコンピュータの購入に充てる予定である。
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