研究課題/領域番号 |
20K03859
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大坪 嘉之 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (70735589)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | トポロジカル近藤絶縁体 |
研究実績の概要 |
低温において強い電子相関(近藤効果)の影響により金属絶縁体転移を示す近藤絶縁体の中でも、その絶縁体相の3次元(バルク)電子状態のパリティ固有値として非自明な値を持つトポロジカル近藤絶縁体(TKI)は電子相関とトポロジーの協奏効果による新奇低次元電子状態発現が期待されて多くの注目を集めている。このようなトポロジカル電子系に対して、グラフェン等の2回回転の対称性を持たない2次元系で現れるバレー偏極構造を導入し、そこに現れると期待される特異な電子構造を明らかにすることを目的として研究を行った。 本年度はTKIであるSmB6単結晶を用い、申請者独自の技術により作製が可能になった(111)清浄面において、バレー偏極が期待される表面ブリルアンゾーン上のK点およびK'点近傍の表面電子状態を角度分解光電子分光(ARPES)を用いて観測した。この際、理論的に出現が予測されている複素エネルギー固有値を検出するために近藤温度(約70K)近傍で温度を掃引しながら表面電子状態の変化を観測した。 本年度に行ったARPES測定ではバルク近藤ギャップ中を分散する明瞭な金属的表面電子状態が観測された。電子状態の分散は温度変化に対して一様ではなく、この変化の中には複素エネルギー固有値の出現などの新奇電子物性が隠れている可能性がある。観測された変化について、既知のSmB6単結晶のバルク電子状態の金属絶縁体転移に伴うものとの分別を目指して解析を進め、必要ならば追加の測定を計画する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SmB6単結晶の(111)清浄面における表面電子状態の観測は既知の表面作製方法に基づいて計画通りに行うことができ、この側面においては研究計画は順調に進捗している。一方、並行して実施を計画していたSmB6単結晶表面清浄化手法の改善については感染症対策等の都合から購入・整備を予定していたいくつかの装置を今年度中に入手できなかったため、やや遅れがみられる。既に導入する装置の設計等は済んでいるため、今年度以降に購入・整備を進め、遅れを取り戻したい。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度は従来の(研究代表者が開発した)方法による表面試料製作とARPES測定を行った。今年度以降は得られた表面電子状態の温度変化データの解析を進め、温度変化に伴う複素エネルギー固有値の出現やバレー偏極構造のトポロジカル表面電子状態の影響などの新奇電子物性を抽出する。また、必要な追加測定があれば適宜行う。 一方、SmB6単結晶の清浄表面作製手法に関しては本研究予算を用いて清浄化装置・手法の改善を試みる。感染症対策のために若干の遅れがみられるが、研究計画に示した希ガス雰囲気下での加熱、原子状水素吹付環境での加熱等を試みる予定であり、そのための装置製作を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
感染症対策のために購入を予定していたいくつかの製品の導入が遅れた。既に設計・選定は済んでおり、次年度以降に購入予定。
|