本年度は、主に、トポロジカル超伝導体における熱スピン交差応答について研究を進めた。特に、準古典Keldysh理論を用いて、非ユニタリー超伝導状態に温度勾配を印加すると、温度勾配に沿った方向にスピン流が流れる「スピンゼーベック効果」が生じることを見出した。バルク超伝導体では、マイスナー効果によって温度勾配に沿って生じる電流は完全に遮蔽されるため、ゼーベック効果は期待できない。これは、温度勾配によって誘起される準粒子による電荷の流れが、対向する超伝導電流によって完全に遮蔽されるためである。しかしながら、本研究では、バルクの非ユニタリー超伝導において、温度勾配は準粒子の電荷の流れだけでなく、スピンの流れも誘起すること、準粒子が媒介するスピン流はスピン偏極した超伝導スピン流によって遮蔽されないことがわかった。さらに、このスピンゼーベック効果は非ユニタリなCooper対による対称性の破れを直接的に反映させていることも明らかにした。本研究課題を通して、(1)カイラル超伝導における時間反転対称性と鏡面対称性の自発的破れによって熱ホール効果が生じること、(2)ヘリカル超伝導における鏡面対称性とスピン回転対称性を合成した対称性が自発的に破れることでスピンネルンスト効果が生じることがわかった。これら一連の研究成果によって、熱ホール効果、スピンネルンスト効果、スピンゼーベック効果などの熱・スピン輸送現象がCooper対の対称性を同定するためのプローブとして有用であることが見出された。上記に加えて、ヘリカル超伝導において、ヘリカルヘッジ状態が媒介する逆スピンホール効果や内因性スピンネルンスト効果などを見出しており、これらは現在、論文としてまとめている。
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