研究課題/領域番号 |
20K03861
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松岡 英一 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (20400228)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非従来型異常ホール効果 / ホール抵抗 / 希土類化合物 |
研究実績の概要 |
本研究は、フラストレーションを有する新しい化合物群であるR6Pd13X4 (R = 希土類, X = Zn, Cd) と、R6Mg23Z (Z = 第14, 15族元素) について、非従来型の異常ホール効果 (AHE)を系統的に検証することを目的としている。本年度は、Ce6Pd13Zn4, Nd6Pd13Zn4, Ce6Mg23Geの三化合物について、多結晶試料を用いたホール抵抗測定を行った。さらに、Rが面心立方格子を組むことで幾何学的フラストレーションを有するRMgZn2を新たに見出し、R = Ceの化合物の基礎物性を明らかにした。 Ce6Pd13Zn4(3.3Kと1.3Kで反強磁性転移を示す)のホール抵抗の磁場依存性を、1.3K~3.3Kと、1.3K以下の二つの温度範囲で測定したところ、前者の温度範囲では反強磁性-常磁性の相境界に対応する磁場でなだらかな肩が現れた一方、後者の温度範囲では相境界近傍の磁場で極大が現れた。前者の肩の出現は磁化に伴う従来型の異常ホール効果に起因するとしても説明されるが、後者の極大の出現はそれでは説明できず、AHEに起因する可能性が高い。また、Ce6Mg23Ge(1.6Kで反強磁性転移を示す)のホール抵抗の磁場依存性も、反強磁性転移温度以下でAHEを思わせる極大を示した。これらとは対照的に、Nd6Pd13Zn4(13.8Kで反強磁性転移を示す)のホール抵抗の磁場依存性は、反強磁性転移温度以下でもAHEを思わせる異常を示さなかった。 新物質であるCeMgZn2は5.4Kと3.1Kで反強磁性転移を示し、5T以下の磁場で少なくとも四個の磁気秩序相を持つこと、及び常磁性キュリー温度が反強磁性転移温度より10倍以上大きいことが分かった。これらの性質は、CeMgZn2の磁性に幾何学的フラストレーションが影響していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AHEの系統的検証が本研究の目的であるため、本年度は五化合物程度についてホール抵抗測定を行うことを想定していたが、実際には研究実績の概要で挙げた三化合物についての測定に留まった。また、磁性と伝導の異方性を検証するためにR6Pd13X4とR6Mg23Zの単結晶作製を行うことも計画していたが、物性測定が可能な大きさの単結晶を得ることが出来なかった。一方で、幾何学的フラストレーションを有する新たな化合物であるRMgZn2を見出してその基礎物性を明らかにするという、予想外の成果が得られた。RMgZn2はAHEの系統的検証を行う新たな化合物群としても有望である。従って、当初予定していた研究計画に若干の遅れがあるものの、次年度以降の研究に広がりを与える化合物群を見出したことを加味すれば、現在までの研究がおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
R6Pd13X4とR6Mg23Zについて、物性測定が可能なだけの単結晶を作製するための条件を最適化する。そして、磁性と伝導の異方性を検証し、ホール抵抗の磁場依存性に現れた極大とAHEの関係について、より定量的な解析を進める。また、研究実績の概要で挙げた三化合物以外のR6Pd13X4とR6Mg23Zについてホール抵抗測定を進めると共に、RMgZn2のホール抵抗測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって在宅勤務を行わざるを得ない期間があったため、当初予定していた物性測定と単結晶作製に遅滞が生じた。また、熊本大学で開催予定であった日本物理学会秋季大会がオンライン開催となったことに加えて、遠隔地への出張制限によって外部施設での実験を行うことも出来なかったことから、旅費の支出がゼロとなった。これらの理由によって次年度使用額が生じた。 次年度はコロナ禍以前とほぼ同様な実験実施が可能と見込まれるため、本年度に行えなかった物性測定を実施するための寒剤費や、単結晶作製のための金属材料費として次年度使用額を割り当てる。また、日本物理学会の秋季大会と年次大会は引き続きオンライン開催となる一方、外部施設で実験を行うための出張は可能となる見込みであるため、そのための旅費の支出も想定している。
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