第3年度につき,以下の2点の研究実績として報告する: 1:初年度末より製作改良したパルス管冷凍機と1K冷凍機を光学用に改良した.室温部に光学測定用の透明窓を設置する手法自体は光学冷凍機としてよく用いられるが,本実験の場合は渦の観測のため,長さ20cm という大型の窓を必要とする.従来のガラスとインバー合金による窓では対応できないため,あらたにポリカーボネート製の窓を開発した.また,50Kシールドに市販のカメラ用赤外線フィルタを加工したものを利用して300Kからの黒体輻射を遮ることにより,1.4 K までの冷却に成功した.これで,固体水素を用いた量子渦糸の観測が可能になるはずである. 2:1とは別に行なっている従来型の渦生成装置をもちいて, 昨年度開発した「最大相関法を用いた伝播時間差計測法」による渦の循環測定と第2音波を用いた局所渦糸密度測定を行った.今年度は吸込穴の直径を2 mm と 5 mmについて実験を行い,吸込流の大きさを変化させることに成功した.二つの実験から,吸込渦のポテンシャル流領域を特徴づける循環がタービン回転数に比例していることを確認した.これまではタービン内の液体の角運動量が吸込渦のポテンシャル流領域全体の角運動量に完全に転化していると解釈していたが,吸込穴直径を変えた実験により,じつは,吸込穴からタービン室の出口のあいだのどこかで角運動量が損失していること,そしてその損失もタービン回転数に比例しているという考察を得た.これは古典流体を含めた渦の生成実験としては初めての成果である.また,数値シミュレーショングループとの共同研究により.渦コア領域の渦糸の構造についての結論を得た:すなわち,吸込渦中の量子渦はコア領域に集中しているが,実際はほとんど水平方向を向いており,わずかな垂直成分のみが渦コアの循環に寄与しているに過ぎない.
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