研究課題/領域番号 |
20K03868
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石河 孝洋 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, NIMS特別研究員 (40423082)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / 水素化物 / 進化的アルゴリズム / 第一原理計算 / マテリアルズ・インフォマティクス |
研究実績の概要 |
進化的アルゴリズムに立脚したマテリアルズ・インフォマティクスにより、高温超伝導性を示す3元系水素化物を理論的に探索することが本研究課題の目的となる。2元系では第2、3族元素の水素化物で200ケルビンを超える超伝導が予測されている。これまでの研究で、水素化物の物理的・化学的特性に関するデータを文献や自身の計算によって収集し、それを基に遺伝的プログラミング(GP)を使って超伝導転移温度と相関の強い評価値を与える関数(超伝導性予測器)を作成した。この予測器を使って3元系水素化物における高温超伝導の候補を回帰分析で選出したところ、ストロンチウム-ジルコニウム水素化物(SrZrH20)、ナトリウム-アルミニウム水素化物(NaAlH12)、バリウム-セリウム水素化物(BaCeH20)、カリウム-スカンジウム水素化物(KScH24)、ラジウム-トリウム水素化物(RaThH20)が高温超伝導の候補として選ばれた。一方、作成した超伝導性予測器は水素化物の安定性までは予測できないため、本年度は安定組成及び安定構造を進化的アルゴリズムで同時探索する独自の手法を考案・開発した[T. Ishikawa and T. Miyake, Phys. Rev. B 101, 214106 (2020)]。これによってエネルギー凸包上に出現する蓋然性の高い水素化物をデータ駆動で効率良く調べることができるため、GPで作成した予測器による候補選出と併用することによって、本研究目的となる水素化物高温超伝導の探索を更に効率化できる。この新手法を上述の高温超伝導の候補である水素(H)-カリウム(K)-スカンジウム(Sc)系へ適用させ、新奇高温超伝導相の探索を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、遺伝的プログラミング(GP)で作成した超伝導性予測器を使って高温超伝導の候補となる水素化物を見つけ出すことであったが、選出された水素化物の安定性についてはこの予測器で判断できないため、この解決策を考える必要があった。そこで、本年度では、進化的アルゴリズムによって形成エネルギー凸包上に出現する蓋然性の高い水素化物をデータ駆動で調べる独自の手法を開発した[T. Ishikawa and T. Miyake, Phys. Rev. B 101, 214106 (2020)]。この安定水素化物探索手法の開発は当初予定していなかったものだが、これとGPで作成した予測器による高温超伝導の候補選出とを併用することによって本研究課題を更に進展させることが可能となったため、当初の計画以上であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
開発した安定水素化物探索手法を水素(H)-カリウム(K)-スカンジウム(Sc)系に適用させて高温超伝導を示す新奇3元系水素化物の探索を行う。現在のところScよりもKを豊富に含む水素化物が安定化する傾向にあることが分かりつつある。この探索を更に進めながら得られた安定水素化物について超伝導転移温度を計算し、これらの結果をまとめて論文で発表する。 本年度中にアメリカの実験グループによって267万気圧まで圧縮した水素(H)-炭素(C)-硫黄(S)系において288ケルビン(15℃)の室温超伝導が観測された。その一方で、この高圧相の組成、結晶構造などの詳細は明らかになっていない。水素化物における室温超伝導の発見は本研究課題の重要な目的であり、また本年度に開発した安定水素化物探索手法はこれを解明するための強力な手法となり得るため、H-C-S系における安定相及び超伝導相の探索を今後の研究計画に加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で予定していた学会がオンライン開催となり旅費が未使用になったこと、及び購入を予定していたものよりも高性能の計算機が次年度の5月頃に発売することが判明し、それにあわせて本年度での購入を見合わせたことにより、次年度使用額が生じた。次年度分は300,000円を請求しているが、これと合わせて計算機1台(900,000円)及びそれに関連する計算機部品(300,000円)の購入と、現地開催の学会に参加するための旅費(100,000円)に使用する計画である。
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