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2020 年度 実施状況報告書

多軌道モット有機導体の作る新電子相とスピン輸送

研究課題

研究課題/領域番号 20K03870
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

藤山 茂樹  国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (00342634)

研究分担者 田嶋 尚也  東邦大学, 理学部, 教授 (40316930)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードディラック電子 / 軌道反磁性 / 電磁双対性
研究実績の概要

ディラック電子系は低エネルギー線形分散を有するバンド構造を有する電子系である。これまでグラフェンやビスマス、また近年精力的に研究されているトポロジカル絶縁体の表面状態もディラック電子系の一種である。有機導体は近年、バルク体として、フェルミ準位がディラック点近傍に安定的に存在する物質群であると認識され、ディラック電子分散研究のプロトタイプとして期待されている。
今年度、われわれは有機導体a-(BETS)2I3は常圧で2meV程度の小さなギャップを持つ二次元ディラック電子系であることを明らかにした。これまでよく研究されてきたa-(BEDT-TTF)2I3は圧力セルを用いた高圧力下でしかディラック電子が実現していなかったのと対照的に、本物質は常圧で実現する。われわれは磁化率の異方性から電気伝導面に垂直な方向にのみ軌道反磁性が生じることを見出し、併せて研究分担者による伝導率測定から1伝導面あたりの電気伝導率が量子抵抗の値を示すことを見出した。ここで示された軌道反磁性は2次元ディラック電子系でながらく理論的に予言されていたもののバルク物質がなかったために観測されてこなかった現象をとらえた現象である。また、1伝導面量子抵抗率も2次元ディラック電子系の顕著な特徴であり、両者が同時に観測された例は大変珍しい。
ディラック電子系のバンド構造は特殊相対性理論における光錐をフーリエ変換したものである。このためディラック電子の電磁応答は量子電気力学(QED)で記述することが期待される。われわれは理論研究者との共同研究から、今年度観測された軌道反磁性と量子伝導率がQEDを用いた理論の枠組みで定量的に説明が可能であることを明らかにし、両者が電磁双対の関係にあることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度発見した軌道反磁性は二次元ディラック電子系においてながらく理論的に予言されていたものの実験的な観測が行われてこなかったものであり、SQUID磁束系を用いた反磁性の絶対値観測の意義は大きい。ディラック電子系の電磁応答は量子電気力学による取り扱いが可能となり、高エネルギー物理学との接続も見据えた幅の広いものである。われわれは定量的に理論と実験を比較することに成功し、来年度以降の詳細な研究の十分な基礎を作ることができたと考えられる。

今後の研究の推進方策

ディラック電子系においては軌道反磁性とあわせて異常ホール効果の出現が理論的に予言されているが実験的観測の報告はこれまでにない。今年度の成果から異常ホール効果の端緒のような現象が観測されているため理論研究者との共同研究などを通して詳細をあきらかにしていく。
二次元ディラック電子系の電磁双対性については、誘電率の周波数依存性がなくなることが知られており、これは実際にグラフェンで観測されている。同様の現象をバルク体ディラック電子系であるa-(BETS)2I3で観測できるかどうか、という問題はこの物質の温度に依存しない電気伝導の起源を探る上でも重要な役割を果たすと考えられる。このため、誘電率測定の測定装置の建設を行う。

次年度使用額が生じた理由

在宅勤務期間があったため、実験そのものは行っていたが液体ヘリウム、液体窒素を大量に用いる実験を後回しにし、SQUID 磁束系など寒剤をあまり用いない研究を先に行った。また出席を検討していた国際会議がとりやめとなったために次年度使用額が生じた。研究計画の全体に変更はないため使用する予定である。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 量子スピン液体相近傍での磁気モーメントの分子内分裂2020

    • 著者名/発表者名
      藤山茂樹, 加藤礼三
    • 雑誌名

      日本物理学会誌

      巻: 75 ページ: 433~438

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Quantum Phase Transition in Organic Massless Dirac Fermion System α-(BEDT-TTF)2I3 under Pressure2020

    • 著者名/発表者名
      Unozawa Yoshinari、Kawasugi Yoshitaka、Suda Masayuki、Yamamoto Hiroshi M.、Kato Reizo、Nishio Yutaka、Kajita Koji、Morinari Takao、Tajima Naoya
    • 雑誌名

      Journal of the Physical Society of Japan

      巻: 89 ページ: 123702~123702

    • DOI

      10.7566/JPSJ.89.123702

    • 査読あり
  • [学会発表] a-(BETS)2I3 の異常ホール効果2021

    • 著者名/発表者名
      藤山茂樹, 加藤礼三, 田嶋尚也
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] 二次元ディラック電子系の電磁双対性:大きな軌道反磁性と量子化されたコンダクタンスを結ぶ関係2021

    • 著者名/発表者名
      前橋英明, 藤山茂樹, 小形正男
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] 有機ディラック電子系における量子相転移2021

    • 著者名/発表者名
      鵜野澤佳成, 川椙義高, 加藤礼三, 西尾豊, 梶田晃示, 田嶋尚也
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] 量子スピン液体 EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 の単結晶 13C NMR2020

    • 著者名/発表者名
      藤山茂樹, 加藤礼三
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] Orbital diamagnetism of two dimensional Dirac electrons2020

    • 著者名/発表者名
      藤山茂樹
    • 学会等名
      科研費合同研究会「分子性導体でみられる異常軌道磁化率の研究会」
    • 招待講演
  • [学会発表] 常圧二次元ディラク電子系a-(BETS)2I3の軌道磁性2020

    • 著者名/発表者名
      藤山茂樹,前橋英明,崔亨波,圓谷貴夫,小形正男,加藤礼三
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] 量子スピン液体候補物質κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3に対するひずみ効果と電界効果2020

    • 著者名/発表者名
      櫻糀大仁, 川椙義高, 上辺将士, 田嶋尚也, 山本浩史, 加藤礼三, 西尾豊, 梶田晃示
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] α-(BEDT-TTF)2I3の圧力下の電荷秩序転移2020

    • 著者名/発表者名
      高須康弘, 和田浩輝, 西尾豊, 川椙義高, 田嶋尚也, 内藤俊雄, 加藤礼三, 梶田晃示
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] 有機ディラック電子系の面内磁気抵抗効果2020

    • 著者名/発表者名
      小原遼太郎, 土居龍生, 内藤俊雄, 田村雅史, 加藤礼三, 川椙義高, 西尾豊, 梶田晃示, 田嶋尚也
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] 有機ディラック電子系の低温問題2020

    • 著者名/発表者名
      田嶋尚也, 小原遼太郎, 鵜野澤佳成, 加藤礼三, 川椙義高, 西尾豊, 梶田晃示
    • 学会等名
      日本物理学会
  • [学会発表] 有機ディラック電子系における量子輸送現象の圧力効果2020

    • 著者名/発表者名
      鵜野澤佳成, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三, 川椙義高, 西尾豊, 梶田晃示, 田嶋尚也
    • 学会等名
      日本物理学会

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公開日: 2021-12-27  

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