研究実績の概要 |
他の組織に囲まれた環境の中(3次元空間内)で細胞が隣の細胞と接着し、クラスターを形成したまま動ける仕組み(以下「細胞のクラスター移動」と呼ぶ)を力学の視点から解き明かす為に、細胞の表面の動力学に注目した力学モデルを作成し、細胞のもつ極性からくる方向依存的な収縮力や接着力を用いれば、クラスターを形成したまま移動することが可能であることを示した。具体的な内容は以下のようである。3次元空間内にある細胞を多面体で表現し、細胞が細胞表面で持つ収縮力や接着力の強さを細胞の表面張力で表現し、細胞の持つ極性からくる方向依存性(例えば細胞の前方では収縮力が弱く後方では収縮力が強いなど)を方向依存的な表面張力で表現した。細胞の表面張力の強さが場所(細胞中心から見た時の相対的な位置)に依るだけで細胞がクラスターを形成したまま一方向に移動しうるかを調べた。まず一つの細胞から調べた。モデルの設定から細胞の前面では表面張力が弱い(収縮力が弱い)ために細胞の表面積が増える傾向にある。後方では表面張力が強く細胞表面は減少する傾向にある。この傾向によって細胞膜が前方から後方に移動する流れが生まれる。その流れの反作用で細胞が前方向に移動できることが示された。この細胞膜の流れは複数の細胞が接着してクラスターを形成している場合にも起こり得る。つまり、クラスターを形成している細胞も一つの細胞が表面の一方向の流れによって移動できたのと同様に表面張力の方向依存性だけを使って移動することができる。この細胞の移動のメカニズムは本研究で初めて得られた見解であり(S. Okuda and K. Sato, Biophys J. (2022))、形態形成や病気の転移などで数多くみられる細胞のクラスター移動の仕組みの大きな謎を解くきっかけになりうるものである。発展が期待される。
|