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2020 年度 実施状況報告書

アクティブマターの集団運動における実効的なアクティブストレスの理解

研究課題

研究課題/領域番号 20K03874
研究機関東北大学

研究代表者

義永 那津人  東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (90548835)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードアクティブマター / 非平衡物理 / 生物物理 / 流体力学 / 自己駆動粒子 / 集団運動
研究実績の概要

アクティブマターは、内部にエネルギー源を持った粒子が自己駆動するメカニズムや、多数の自己駆動粒子が示す集団運動の解明を目指す分野である。これらの現象は多岐にわたり、大腸菌の集団運動のような生命現象から、Janus粒子と呼ばれる異なった性質の表面を持つ粒子でも、自己駆動粒子の集団運動が観測されている。自己駆動のメカニズムは、単純な数理モデルを用いて理解が進んでいるが、これらのモデルとマクロスケールでの現象論的な連続体記述がどのようにつながるのかは不明な点が多い。本研究では、マクロな方程式に現れる、アクティブストレスや拡散係数などの係数を粒子スケールの情報を利用して構成方程式を作る手法について研究を行う。
本年度は、集団運動における自己駆動粒子の拡散係数と応答係数の解析を行った。自己駆動粒子のモデルとしてよく知られているVicsekモデルとActive Brownian粒子では、拡散係数が密度の増加とともに、それぞれ単調に減少、増加することが分かった。これらのモデルを組み合わせて、排除体積相互作用と配向相互作用を持つ自己駆動粒子を用いて、そこに流体相互作用を入れることによって、高密度でも配向状態が起きないモデルを考察し、このモデルの拡散係数が密度に対してピークを持つことを示した。また、同じモデルに外力を加えた時の応答についても解析を行った。角度方向に外部摂動を加えて、集団運動のマクロな配向を解析することによって、密度を上げると応答係数が増大することを示した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

アクティブマターの輸送係数や応答係数が様々な特異性を示すことは、最近理論、実験の両面から議論されている。その中で、粘性が応力に対して非単調性を示すことが実験的に明らかになり、その理論的メカニズムが議論されている。一方、拡散係数に関しては、非単調性はまだ明確には報告されていないが、非単調性が存在することは定性的には認識されている。本研究により、拡散係数が密度の増加に対して非単調な依存性を示す具体的なモデルを構築できたことは大きな発見である。排除体積相互作用がある場合には、平衡でのコロイド粒子と同様に高密度では、コロイド同士がぶつかるために拡散係数は小さくなる。一方、配向相互作用によって粒子がそろって運動する。高密度では、配向相互作用が顕著になり、すべての粒子が同じ方向に向くために、一方向運動の持続長がのびて見かけの拡散係数は大きくなる。ただし、マクロに一方向に運動している。多くの実験系では大きなスケールでは一方向はあまり見られない。これは、例えば流体相互作用によって長距離の配向が不安定化するためである。この効果を取り入れるために、流体相互作用を近似的にモデルに取り入れることで、局所的には配向しているが、大きなスケールでは密度が一様で配向していない状態を実現できる。このようなモデルで、局所的な配向に対応して、密度に対して非単調な拡散係数を持つことが分かった。
応答係数についても、配向方向に外力を入れて、固定した方向に向くようにした時の全体の配向度を解析した。その結果、高密度で応答係数が大きくなることが分かった。これは、拡散係数の非単調性と対照的であり、平衡状態のような揺らぎと応答の関係が破れていることを示唆している。本研究で考察したモデルは、アクティブマターの非平衡状態を特徴づけるために有用であるのではないかと考えている。

今後の研究の推進方策

今後も拡散係数と応答係数の解析を進めていく。特に拡散係数に関しては、どのような条件で密度に対する非単調性が生じるのかを明らかにしていく。応答係数に関しては、外力の入れ方を変えることで、配向が応答する場合や、密度が応答する場合に分けて考えることができるので、それぞれの応答係数について解析を進めていくことを計画している。また、実験グループと共同研究を行っており、実験結果との比較を今後も行っていく。
アクティブストレスに関しては、引き続きアクティブ液晶を含む液滴の解析を進めており、配向場の不均一性によって流れ場が誘起される問題に対して、液滴全体で平均したストレスの計算を進めている。液滴全体での実効的なアクティブストレスは、液滴の運動や変形として実現され、dipoleやquadrupoleなどと呼ばれる流れ場と対応している。このような対応関係を詳細に解析することで実効的なアクティブストレスが従う構成方程式について研究を進めていく。
また、機械学習や逆問題の手法を用いて、モデルや構成方程式の推定についても研究を行っていく。現在は、ヤヌス粒子を用いた構造形成の問題に機械学習的手法を適用しており、目的となる構造を実現するための相互作用を推定する手法の開発を進めている。

次年度使用額が生じた理由

コロナウイルスの蔓延により、国内外の出張はすべてキャンセルになった。また、計算機の調達に関しても、外部業者が大学に訪問することが困難になったことや、部品等の調達に時間がかかることなどにより、我々がアクセス可能なクラウド計算機などを利用することにした。使用計画に関しては、次年度も不透明な部分が多く、特に旅費に関しては同様な状況が続くと考えられる。状況を注視しながら計画的に使用する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Topological defects of dipole patchy particles on a spherical surface2020

    • 著者名/発表者名
      Uyen Tu Lieu and Natsuhiko Yoshinaga
    • 雑誌名

      Soft Matter

      巻: 16 ページ: 7667-7675

    • DOI

      10.1039/D0SM00103A

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Conformational equilibrium of MinE regulates the allowable concentration ranges of a protein wave for cell division2020

    • 著者名/発表者名
      Shunshi Kohyama, Kei Fujiwara, Natsuhiko Yoshinaga, Nobuhide Doi
    • 雑誌名

      Nanoscale

      巻: 12 ページ: 11960-11970

    • DOI

      10.1039/D0NR00242A

  • [学会発表] Model Selection of Phase-Field Crystal Models for Targeted Crystalline Patterns2021

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga and Satoru Tokuda
    • 学会等名
      E-MRS 2021 Spring, Virtual Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] Model Selection of PDE for Pattern Formation2021

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga and Satoru Tokuda
    • 学会等名
      25th International Congress of Theoretical and Applied Mechanics (ICTAM 2020+1), Milano, Italy
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] ベイズ推定を用いた目的の相分離パターンの支配方程式の推定2021

    • 著者名/発表者名
      義永那津人、徳田悟
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [備考] ホームページ

    • URL

      http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/~yoshinaga/index.html

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公開日: 2021-12-27  

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