研究課題/領域番号 |
20K03877
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長友 重紀 筑波大学, 数理物質系, 講師 (80373190)
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研究分担者 |
中谷 清治 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00250415)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シリカゲル / 細孔 / ヘムタンパク質 / ミオグロビン / 拡散 / 蛍光 / 吸収スペクトル / 倒立型顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本年度は,新型コロナ感染防止のこともあり,すぐに実験を行えない状況下ではあったが,ヘモグロビンをシリカゲル細孔内に入れてその物性を調べるために必要となる実験をヘモグロビンと同様にヘムをもち,球状タンパク質という点で構造が似ているミオグロビンを用いて研究を推進した.ミオグロビンが細孔内に入っていることをレーザ共焦点顕微鏡を用いた蛍光により再確認するために,ミオグロビンからヘムを抜き,亜鉛ポルフィリンを入れて再構成した亜鉛ミオグロビンを用い,この亜鉛ミオグロビンが発する蛍光を利用した.このミオグロビンを用いて,レーザ共焦点顕微鏡を用いた蛍光により細孔内に入っていることを再確認した.さらに,細孔内にタンパク質(ミオグロビン)が入っておらず,外部の水溶液にタンパク質がある状況下では,外部から細孔内にタンパク質が入っていく過程を観測でき,一方,細孔内にタンパク質が入っていて,外部の水溶液にはタンパク質がない状況ではシリカゲル細孔からタンパク質が抜けて外部の水溶液中に出ていく過程も観測できた.このように,シリカゲル内部と外部の水溶液との間に濃度勾配がある場合には,シリカゲル内部と外部の溶液との間にタンパク質の出入りが行われることが明らかになった. また,シリカゲル内部に入ったタンパク質を研究室自作の倒立型顕微鏡にてタンパク質の入ったシリカゲル粒子にキセノンランプの光を通して,380~650 nmの範囲の吸収スペクトルも測定することができた.ヘモグロビンと同様に酸素を可逆的に脱着できるミオグロビンの吸収スペクトルを得ることにより,酸素飽和度を決めることが可能になる.したがって,ヘモグロビンにて同様の吸収スペクトルを測定することで,シリカゲル細孔内におけるヘモグロビンの酸素親和性を求めることが期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘモグロビンと同様,球状のヘムタンパク質である亜鉛再構成ミオグロビン(以下,ミオグロビンと表記)を用いて,外部のミオグロビン水溶液から溶液内に浸したシリカゲルの細孔内にミオグロビンが入っていく過程と抜けていく過程の両方を,レーザ共焦点顕微鏡を用いた蛍光強度の増大と減少をそれぞれ観測したことにより,確実にシリカゲル内にヘムタンパク質が入っていることを確認した.予備実験でシリカゲルに入っている状態の亜鉛ミオグロビンの蛍光を確認してはいたが,今回,シリカゲル細孔から発せられた蛍光強度の増大と減少を確認できたことにより細孔内に可逆的に出入りできることが確認できた.このことは成果である. また,細孔内におけるミオグロビンの吸収スペクトルを実測することにも成功した.このことも成果である.ヘモグロビンの酸素親和性を決定する際には酸素飽和度を知る必要があるが,それは吸収スペクトルのdeoxy(脱酸素)形とoxy(酸素結合)形のある波長におけるモル吸光度の大きさと実測の吸光度から決定することができるので,細孔内におけるミオグロビンの吸収スペクトルの実測に成功したことは,ヘモグロビンの酸素飽和度を決定でき,シリカゲル細孔内におけるヘモグロビンの酸素親和性を求めることが期待できる. このように,シリカゲル細孔内における吸収スペクトルを測定できたことから進捗状況は順調ではあるが,ヘモグロビンの測定ではないので,「(2)のおおむね順調に進展している」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
ヘモグロビンと同様,球状のヘムタンパク質である亜鉛再構成ミオグロビンがシリカゲル細孔内に入ることが確認でき,さらにシリカゲル細孔内のミオグロビンの吸収スペクトルを実測することに成功したので,今後は本研究課題の1つであるシリカゲル細孔内に入っているヘモグロビンの酸素飽和度をシリカゲル細孔内の吸収スペクトル測定から決め,シリカゲル細孔内におけるヘモグロビンの酸素親和性を求めることとする. さらに,シリカゲル細孔内のヘモグロビンの顕微共鳴ラマン分光により,ヘモグロビンの機能と密接な関連があると考えられているFe-His(ヘム鉄と配位しているヒスチジンの結合)結合の伸縮振動とヘムの振動を測定し,すでにある水溶液(バルク)の結果と比較することで,シリカゲル細孔内にあるヘモグロビンの構造を推定する.シリカゲル細孔内はシラノール基の存在により親水的な環境にあると推測されるので,顕微共鳴ラマン分光による振動スペクトルは水溶液(バルク)の場合と似ていると予想している. また,テラヘルツ時間領域分光法(THz)あるいはサブテラヘルツ帯ネットワークアナライザー(GHz)などの方法を本研究目的に合うように実験系の改良を図って,本研究課題である「低誘電率細孔内に閉じ込めたヘモグロビンの機能とそのTHz, GHz主鎖振動の観測」を実施する.
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