研究課題/領域番号 |
20K03877
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長友 重紀 筑波大学, 数理物質系, 講師 (80373190)
|
研究分担者 |
中谷 清治 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00250415)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ヘモグロビン / シリカゲル / 細孔 / ミオグロビン / 拡散 / 蛍光 / 共焦点顕微鏡 / ラマンスペクトル |
研究実績の概要 |
昨年度(2022年度)は,シリカゲル細孔内のTHz領域のスペクトルを得るための測定系を,顕微鏡を基本に構築した.プローブ光となるレーザ光を光ファイバーを用いて対物レンズへ導入し,ミオグロビン溶液中に入れたシリカゲル粒子(粒径約60μm)で焦点が合うようにし,散乱光も同じ対物レンズで集光し,光ファイバーを用いて分光器,検出器へ光を導くように設計した.しかしながら,分光器の分解能における問題が生じたので,本装置はヘモグロビンのシリカゲル内の酸素飽和度を評価するための顕微吸収分光光度計として構築することとし,ヘモグロビンの酸素脱着に伴う吸収スペクトル(昨年度は主に500~700 nmのQバンド)を得ることができた. 一方,昨年度構築する予定であった顕微ラマン分光については上の理由から,共同研究として高エネルギー加速器研究機構共通基盤研究施設にある装置を用いて,532 nmの励起波長で,シリカゲル内のヘモグロビンのラマン分光を実施した.その結果,シリカゲル細孔内でも溶液と同様にヘモグロビンのラマンスペクトルを得ることができ,また,酸素結合形におけるシリカゲル細孔内と溶液とラマンスペクトルは観測されたバンドの波数,強度から判断してほぼ同様のスペクトルであった.このことから,シリカゲル細孔内でもヘモグロビン分子は大きな構造変化はなく,変性はしていないことが明らかになった. なお,一昨年度(2021年度)に論文としてまとめたシリカゲル細孔内に亜鉛再構成ミオグロビンが入る(分配),出る(放出)過程については,細孔内のタンパク質の基本物性を調べる目的で細孔サイズを変えて分配,放出過程を調べ,細孔内におけるタンパク質の新たな性質がわかったので投稿論文としてまとめ,投稿中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要にも記したが,シリカゲル細孔内におけるタンパク質(ミオグロビン,ヘモグロビン)の挙動,物性については多くの知見は得られたが,本研究課題の「低誘電率細孔内に閉じ込めたヘモグロビンの機能とそのTHz,GHz主鎖振動の観測」については,新型コロナ感染防止対策下での共同研究が困難であったこともあり,行っていない.このことが(3)やや遅れていると判断した理由である.しかしながら,今年度は, ”新型コロナ感染防止対策”以前の状態に戻ると予想されることから,「低誘電率細孔内に閉じ込めたヘモグロビンの機能とそのTHz,GHz主鎖振動の観測」を行うことができると考えている.今回,研究を1年延長したのは,共同研究の実施が可能になると判断したからである. シリカゲル細孔内におけるタンパク質の基本物性を明らかにすることは,本研究課題である「低誘電率細孔内に閉じ込めたヘモグロビンの機能とそのTHz,GHz主鎖振動の観測」において重要なことであり,シリカゲル細孔内でもタンパク質(ヘモグロビン,ミオグロビン)の構造が水溶液と変わらないことを明らかにしたことは大きな進捗である.この成果をもとに,「低誘電率細孔内に閉じ込めたヘモグロビンの機能とそのTHz,GHz主鎖振動の観測」を実施する予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
顕微鏡を基本に構築した顕微吸収測定より,シリカゲル細孔内の酸素親和性に関する情報を得ること,またシリカゲル内のヘモグロビンのラマン分光より,細孔内に保持したヘモグロビンの周囲を極性の低い有機溶媒にすることでどの程度シリカゲル内にヘモグロビン分子を保持できるかについて調べる.この情報は本研究課題の「低誘電率細孔内に閉じ込めたヘモグロビンの機能とそのTHz,GHz主鎖振動の観測」において重要な情報を与える.したがって,この情報をもとに(新型コロナ感染防止対策下のため実施できていなかった)テラヘルツ時間領域分光法(THz)あるいはサブテラヘルツ帯ネットワークアナライザー(GHz)の実験も行う予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年3月で終了予定で会った課題を1年延長申請して認められたので,今年度については,共同実験による旅費と,シリカゲル細孔内のタンパク質の物性を評価するための顕微吸収装置の改良に研究費を用いる予定である.
|