研究実績の概要 |
2023年度に立ち上げたヘモグロビンのシリカゲル内の酸素飽和度を評価するための顕微吸収分光光度計を用いて,細孔内でのヘムタンパク質(ミオグロビン)の挙動を細孔内拡散をもとにして調べ,細孔内においてはシリカゲルの静電場(シラノール基のO-により負に帯電)の影響により,ミオグロビンの正味の電荷が正になる低pHではシリカゲル表面の負電荷により静電引力の効果により脱着が遅くなり,このために細孔内拡散が著しく低下することが明らかになった.一方,高いpHではミオグロビンの正味の電荷が負になることで静電反発が生じ,脱着が遅くなる効果が生じないことから,細孔内拡散は低下しないことも明らかになった.なお,前回も記したが,シリカゲル細孔内に亜鉛再構成ミオグロビンが入る(分配),出る(放出)過程については,細孔サイズを変えて分配,放出過程を調べ,細孔内におけるタンパク質の新たな性質がわかった.投稿論文として2023年度に発表した.そこでは,細孔内のサイズがミオグロビンの分子サイズに近い10,15 nmでは,表面拡散のみが起こり細孔内空間を動くポア拡散はほとんど起こらない,一方,ミオグロビンの分子サイズより大きい30, 50 nmでは表面拡散よりもポア拡散の寄与が大きくなるが,表面-ポア拡散モデルから予想されるポア拡散の値よりも小さくなった.これは新しい知見で,ポア拡散が起こるためには表面から離れるための脱着速度が重要になるが,これはpHが大きく影響し,本概要最初にも書いたが,細孔サイズ依存性の実験で用いたpH 6.5では,シリカゲル表面とミオグロビンとの間の静電引力の効果が大きくなり,そのため脱着が遅くなり,このことが表面-ポア拡散モデルから予想されるポア拡散の値よりも小さくなったことが明らかになった.このように細孔内のヘムタンパク質の基本的な知見を本研究により得ることができた.
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