研究課題/領域番号 |
20K03880
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木村 明洋 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (20345846)
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研究分担者 |
伊藤 繁 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (40108634)
鬼頭 宏任 神戸大学, システム情報学研究科, 特命准教授 (80722561) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光合成 / 反応中心 / 励起移動 / 電子移動 |
研究実績の概要 |
多様な光合成生物の光合成反応中心(RC)が持つ、光捕集/電荷分離反応はどのような関係にあり、 進化の過程でどのように機能的差異を生じてきたのかを生物物理学的に解明することを目的としている。緑色硫黄細菌が持つI型反応中心(GsbRC)は赤外光を利用して非酸素発生型光合成反応を起こす始原的な反応中心の候補と考えられている。しかし、その立体構造が未解明だったため、光捕集機構の理論的解明が困難であった。本年度は、GsbRCの構造情報が最近解明されたため、その光学特性及び光捕集機構の解明を行った。一方、多様なI型RCへと進化分化する際に共通して機能的に重要な色素を見定めるため、天然のGsbRCと共に、遺伝子操作を行ったGsbRCの光学特性が実験的に測定されている。そこで、これらの光学的特性を理論的に比較することで、多様なI型反応中心の機能的特性を調べた。Poisson-TrESP法による励起子結合強度計算とCharge Density Coupling (CDC)法によるサイトエネルギー計算を実行し、天然のGsbRCの励起子モデルとその遺伝子操作したモデルを作成した。天然のGsbRCの光学的特性を再現出来る励起子モデルから、光捕集過程の実験結果を再現した。そこで、遺伝子操作したGsbRCによる光学特性の天然GsbRCからの変化の物理的原因を調査した。 その結果、 GsbRCの遺伝子操作において、各色素および配位しているアミノ酸の静電環境が複雑に相互作用していることを明らかにした。これは、遺伝子操作による実験を行う際には、除去される色素だけでなくその周辺の静電環境と立体配置を考慮する必要があることを意味する。これは、多様なI型RCにおける一次構造で共通しているアミノ酸に配位している機能的に重要な色素とともに、その周辺で相互作用している色素も光捕集において重要である可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に行ったヘリオバクテリア非酸素発生型I型反応中心(HbRC)について、量子化学計算を組み合わせた励起子状態の解析によってその光学特性と光捕集機構の全貌を解明し、HbRCと酸素発生型I型反応中心(PSI)の機能的差異を明らかにした(Journal of Physical Chemistry Bに掲載済み)。昨年度は、Acaryochloris marina 光化学系Iの光捕集特性の解明と共に、従来のPSIの励起子モデルと比較検討することで機能的差異を明確にした(Journal of Physical Chemistry Bに掲載済み)。一方、I型RCの中では最も単純で始原的な緑色硫黄細菌が持つ反応中心 (GsbRC)の立体構造が2020年に報告されていた。そこで、その機能解析を遺伝子操作による実験的研究と組み合わせて行った。現在、研究成果を海外の学術雑誌に投稿するための論文原稿作成中である。その他には、可視光で光合成反応を起こす一部のシアノバクテリアが持つPSIを、遠赤色光下で生育させると遠赤色光に適応した遠赤色光適応型PSI(FR-PSI)を作り出すことがわかっている。近年このFR-PSIの構造解析や分光学的実験が行われているが、その光捕集機構に関する理論的研究は行わてていない。そこで、FR-PSIの遠赤色光による光捕集機構を、その構造情報を用いて理論的に解析した。特に、FR-PSIを光励起させた後の光捕集において遠赤色光の光捕集に重要な色素を推定した。さらに、今までに作成してきた励起子モデルでは光学特性の再現が困難な場合がある。この問題に対して、ベイズ最適化によるモデルの修正を検討した。これにより、より定量的な光捕集機構の解明を行うことができる。これらの結果は日本物理学会2023年春季大会などで報告をし、論文としてまとめ学術雑誌に投稿するため論文執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
I型RCとしてヘリオバクテリア反応中心(HbRC), FR-PSI, GsbRCそしてアシドバクテリア(CabRC)の様に、近年様々なI型RCの構造報告があるなかで、各RCの機能解析を進めてきている。今後の研究の推進方策として以下の様に進めてい く。 1) 近年に多様なI型RCに関する構造情報が多く報告され、これらI型RCについて構造情報に基づいた観点からの各RC間の差異は議論されているが、光捕集に関する機能的差異は検討されていない。そこで、今まで理論的に調査してきたI型RCの励起子モデル、光学特性、そして光捕集機構の結果から各I型RC間の機能的特性の差異を比較検討し、多様なI型反応中心の中で共通した物理的特性を見出しその関係を取りまとめる。必要に応じてベイズ最適化による励起子モデルの修正を行い、モデルに修正が必要な原因を探りそれをI型反応中心全体で俯瞰して比較検討を行う。そして、近年報告されているII型RCを含めた多様なRCおよびその周辺アンテナまで含めた大規模色素系の構造情報を用いてRC周辺の環境も考慮した光捕集機構の機能的差異や、各光合成生物の生息する環境毎で異なる光をどのようにして利用し、光合成生物として進化最適化してきたかを俯瞰的に整理し、そこに潜む物理的機構を解明する。 2) 最近、BChl-a, Chl-aからなるアシドバクテリアRCの高分解能構造解析が報告され、その色素配置はGsbRCに非常に似ていることが明らかとなった。アシドバクテリアRCの構造はGsbRCの構造分解能に比べて非常に高いため、GsbRCの機能解析結果と比較しながら光捕集機能の差異を検討する。1)の研究推進方策に合わせて他のI型RCとの機能的差異も視野に入れた比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、昨年度も未だ学会出張、研究打ち合わせ旅費などを大幅に使用することがなかったため、次年度使用額が生じた。ZoomなどによるICTを利用した遠隔形式の学会や研究打ち合わせを想定して、研究体制において安定したICT環境と研究環境の充実化に必要な機材購入およびスパコン利用料などに充てる。
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