研究課題/領域番号 |
20K03883
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
森次 圭 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任准教授 (80599506)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タンパク質 / ダイナミクス / 分子動力学シミュレーション / マルコフモデル / 重み付きアンサンブル法 / シニョリン / Pin1 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体分子のダイナミクスに内在する非マルコフ性を定量化しその構造起因を解明することを目的とした。そのため、非マルコフ的に構造変化するパスを分子動力学(MD)シミュレーションや重み付きアンサンブル(WE)法により効率的に生成し、状態を定義した上で構造的特徴量を機械学習手法により解析することを目指した。 今年度の研究では、一分子計測などの対照実験研究が多数あるミニタンパク質・シニョリンについて、合計5マイクロ秒の長時間MDを実行し、数10回の折れ畳み過程をシミュレートすることができた。残基間距離を指標としてマルコフモデルを構築した結果、フォールド・アンフォールド状態に加えて異なる相互作用により準安定化したミスフォールド状態と中間状態の計4つに全構造アンサンブルがダイナミクスの観点から分類可能なこと、また、その4状態間の時定数を計算することができた。しかしながら、シニョリン折れ畳みの時定数は従来のマルコフモデルによる解析で定量化できることから、このような小分子では非マルコフ性が大きくないことが分かった。 そのため、中規模のタンパク質であるプロリン異性化酵素Pin1にWE法を適用し、基質ペプチドのcis-trans異性化に伴うPin構造変化のパスサンプリングを行った。cisからtrans、transからcisの両過程についてそれぞれ3本の計算を実施し、構造変化のパスを網羅的に計算することができた。プロリン異性化の速度としてはマイクロ秒オーダーの時定数が得られたが、cisからtransのほうがtransからcisよりも速く、NMR実験との一致を見出した。また、構造変化パスの詳細な解析を行い、遷移状態においてリン酸化セリンとPin1との水素結合をうまく橋渡しすることにより、Pin1が基質ペプチドのcis-trans異性化エネルギー障壁を下げていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画にあるシニョリンのMDシミュレーションと折れ畳み過程の網羅的パスサンプリングは完遂しており、来年度に解析手法の構築を進め、結果を論文にまとめる予定である。また、来年度の研究計画にあるアデニレートキナーゼについても、MDシミュレーションやvariational autoencoderによる機械学習手法を用いた解析法のテスト計算を進めており、来年度には重み付きアンサンブル法による計算を速やかに実行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
開状態と閉状態の構造変化について多くの実験で解析が進んでいるアデニレートキナーゼをモデルタンパク質として、重み付きアンサンブル法による構造変化パスの網羅的探索を行う。得られた構造アンサンブルから、構造変化を記述する自由度(CV)と開状態・閉状態の分断面を、variational autoencoderによる解析を用いて設定し、自由エネルギー地形を計算する。次に、開状態から閉状態、閉状態から開状態の両方向について、WE法により非マルコフ的な構造遷移パスを計算し、遷移レートを得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 計算データバックアップ用途のストレージサーバを今年度に購入しなかったため。また、新型コロナウィルスの感染予防のため、出張や外勤を控えたことにより、旅費を使用することができなかった。 (使用計画) 旅費として計上した分も上乗せし、物品費から100テラバイト程度のストレージサーバを購入する。
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