研究課題/領域番号 |
20K03885
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡邉 宙志 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任講師 (20767199)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水素イオン / プロトン輸送 / 分子動力学 / 量子化学計算 / 溶媒和効果 |
研究実績の概要 |
プロトン移動は、我々に非常に馴染みが深く重要な現象であるにも関わらず、分子シミュレーションでは最も取り扱いが難しい問題である。まず第一にプロトンはグロータス機構で説明されるように、水分子との共有結合の生成と消滅を繰り返されることにより輸送される。一般的にバルクのような巨大な系を扱う際、量子力学(QM)と分子力学(MM)的モデルを組み合わせたQM/MM法を用いてターゲットの分子のみにQMモデルを適用し計算コストを落とすのが一般的である。ただし、QM / MM法を溶液系のダイナミクスに直接適用することは、特にプロトン移動の場合は困難である。 Grotthussメカニズムで説明されているように、プロトン移動は、水素イオンと溶媒水分子の間で玉突きのように運ばれていく。したがって、QMモデルを適用すべき分子が時間発展に伴って変化するからである。 そこで溶質と溶媒の分子モデルがシミュレーションの最中に切り替わるアダプティブな計算の枠組みが必要である。これまで溶媒に対してはいくつかの方法が提案されているが、溶質への適応も考慮したアプローチは未開発のままであった。 そこで昨年度は、まず過剰なプロトンの座標を連続的な関数で表現する方法を提案し、さらに表現されたプロトンを仮想粒子と拘束条件をもちいて制御する手法を提唱した。 これを従来の溶媒のアダプティブ法と組み合わせることで、溶質と溶媒の両方に対する完全なアダプティブ法を完成させた。 これによりバルク中のプロトン移動ダイナミクスが安定的、効率的かつ正確に再現できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍によるテレワークへのシフトにより、研究環境を整備するために時間がかかったが、その間は理論的な定式化等やプログラミングなどの作業に時間を割り当てることで研究の停滞を低減することができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度開発した手法は、水素イオンの人工的な制御を可能にする。これは、分子動力学シミュレーションにおいてサンプリングの効率化を目的として拡張アンサンブル法などと非常に相性が良い。また提案した水素イオンの座標表現と制御方法は、ハイブリッドQM/MM分子モデルに限らず、純粋な量子化学モデルにも適用できる。本年度はこれら手法の融合とその応用可能性に焦点を当てて研究を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) コロナ禍により学会参加や出張がキャンセルになったり、アルバイトの雇用ができなかったため次年度使用額が生じた。これら (使用計画) 昨年度開発した手法を効率的なサンプリング手法と組み合わせて、より巨大な系に適用していく計画である。その際、高性能の計算サーバを購入することでの効率化し対応する。
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