粉と液体を混ぜた高濃度コロイドサスペンション(ペースト)は塑性によって揺れ(振動)や流れ(剪断)などの己の動きを記憶し、乾燥させた時に発生する亀裂の伝播方向はその記憶によって決まる(ペーストのメモリー効果)。ペーストが塑性を持ち己の動きを記憶するメカニズムとして、コロイド粒子間の引力的相互作用によって形成されるネットワーク構造が重要であると考えられる。コロイド粒子が溶液中で帯電している場合はクーロン斥力によってネットワークが形成されにくくなり記憶効果が発現しにくい。本研究により紐状の糖類をペースト中に添加する量を調整することでコロイド粒子間の相互作用を引力的にも斥力的にもすることができ(少量の添加はポリマーブリッジ効果で引力、多量の添加はラッピング効果で斥力)、その結果記憶効果を促進したり抑制したりできることが分かった。 ペーストが揺れを記憶した場合は揺れた方向に垂直に、流れた場合は流れた方向に平行に亀裂が伝播することが知られていたが、本研究では揺れの記憶と流れの記憶の境界を定量化する実験を行った。レオメーター下でペーストに振動剪断歪みを印加してから乾燥破壊をさせたところ、揺れの記憶の垂直縞状亀裂と流れの記憶の平行縞状亀裂のどちらが発生するかは振動剪断歪みの振幅だけで決まることと、流れの記憶のためには振動を加える必要もないことが分かった。すなわち、揺れを記憶する構造は振動する微小剪断歪みを起因としており、流れを記憶する構造は一方向の大変形を伴う剪断歪みを起因としていることが分かった。この結果を元に、ペーストがスリットを通過して流れる前後で亀裂の伝播方向が変化する現象の説明も可能であると考えられる。上記実験結果の画像解析を行うにあたり、特定の方向に伝播する亀裂の異方的な構造を解析するために情報エントロピーを用いた異方性の定量化法を提案し、実際に解析に有効であることも示した。
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