令和3年度に示した低濃度トレハロース水溶液のポリアモルフィック転移の研究成果は、トレハロースの存在が水の低密度ガラス状態を安定化させていることを示している。令和4年度の主な研究実績は、トレハロースが低濃度水溶液ガラスの結晶化後の氷の構造と結晶成長過程に与える影響が他の物質(例えばグリセロール)と大きく異なることを明らかにしたことである。 本研究では、高圧液体冷却ガラス化法を用いて、偏析させずに溶質が均一に分散した状態の低濃度トレハロース水溶液ガラス(0.023モル分率)を作成し、昇温による低密度ガラス状態から結晶化後の結晶成長過程を粉末X線回折法などを用いて調べた。結晶化直後の結晶構造は粒径が数nmサイズのCubicityの高い(氷Ic構造に近い)積層欠陥氷(氷Isd)であり、その氷Isd の結晶成長は極端に遅く、氷Isd→氷Ih転移が230K付近で起る。これは、200K以上で粒径の小さい氷Isdが安定に存在していることを示しており、トレハロース水溶液内の氷は真空化で昇華しやすくなっていることが初めて明らかになった。本研究は、純水やグリセロール水溶液内の氷の結晶成長と異なり、トレハロースが氷の結晶成長や水分子の再配列を阻害していることを示している。 一方で、令和3年度の研究成果の1つである「低濃度トレハロース水溶液の液-液転移」の検証として、低濃度スクロース水溶液のポリアモルフィック転移が調べられた。その結果、スクロース水溶液もトレハロース水溶液と同様に純水に関係した圧力変化よる可逆な液-液転移が観測され、水の液-液転移の正当性が確認された。 一連の結果は、溶質組成の制御により、水のポリアモルフィック転移、核形成、結晶成長過程の制御が可能であることを示唆している。
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