プラズマ中で生じる乱流は、大小様々なスケールの揺らぎを作り出す。近年、スーパーコンピュータを用いた大規模数値シミュレーションにより、広くスケールの離れた揺らぎの間にも相互作用が存在することが明らかになった。本研究では、プラズマ物理・非平衡統計力学・データ科学のアプローチを利用して、プラズマ乱流のマルチスケール相互作用を異なるスケール間の相関問題として捉え、コヒーレントな相関項と確率的な無相関項として表す一般化Langevin描像として定式化・体系化することを目指す。
令和5年度は、第一に、これまで進めてきた射影演算子法と自己回帰分析との比較研究について、学術論文誌に発表した。第二に、多変量射影演算子法を長谷川-若谷乱流における線形不安定な抵抗性ドリフト波モードの解析に適用し、非線形項の内の相関項がモードの安定化に影響することを示した(物理学会発表)。第三に、昨年度発見されたマルチスケール乱流相互作用による輸送抑制効果が、実際の実験平衡配位においても生じうることが数値シミュレーションで示され、その成果を学術論文誌に発表した。第四に、マルチスケール乱流に関するこれまでの研究を包括的に議論し、異なるスケールの乱流間の相互阻害性という普遍的描像を提唱し、学術論文誌に発表した。
研究期間全体の総括として、統計的データ解析手法としての射影演算子法の整理とオープンソースコードの公開、乱流・帯状流間相互作用解析に対する射影演算子法の適用性の実証を完遂することができた。電子・イオン系マルチスケール乱流解析については、射影演算子法の適用に至らなかったものの、異なるスケールの乱流間の相互阻害性や、実効的非等方散逸としての電子スケール効果などの性質が数値シミュレーションデータの分析から得られ、プラズマ乱流マルチスケール相互作用の一般化Langevin描像を支持する結果を得た。
|