研究課題/領域番号 |
20K03893
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 のぞみ 大阪大学, レーザー科学研究所, 特任助教(常勤) (60581296)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 極端紫外(EUV)光 / 可視分光計測 / 物質アブレーション / 光電離 |
研究実績の概要 |
当該年度は時間分解可視分光計測を用いて低Zプラズマのスペクトルを計測し、電子温度、電子密度、水素原子の密度を求めた。EUVアブレーションターゲットには固体ではなく、連続ターゲット供給が容易な水素ガスを用いた。EUV光源はEUV光透過のために10^-2 Pa以下の低真空に保つ必要があるため、作動排気構造を持ったガスターゲットセルを設計製作、評価を行った。光源を必要となる低真空に保ちながら、水素ガス圧力を32 Paまで上昇させることに成功した。水素原子のバルマー系列の輝線スペクトルを観測するため可視分光系を構築した。HアルファおよびHベータスペクトルをVoigt関数でフィットし、ガウス関数項とローレンツ関数項に逆畳み込みをして解析した。ガウス関数項のドップラー広がりから電子温度を求めた。また水素プラズマの二次元画像を計測し径方向の膨張速度からも電子温度を同定した結果、時間積分した電子温度はドップラー広がりから求めた電子温度と良い一致を示し、1.0 +- 0.2 eVであることが分かった。この実験結果は従来から指摘されてきたEUVアブレーションではプラズマが低温で生成されるという予測を裏付ける。一方ローレンツ関数項のシュタルク広がりから電子密度は2.0 +- 0.4 x 10^13 cm^-3 であることが分かった。更に時間ゲート付きICCDを用いてスペクトルの時間分解分光に成功した。EUV光の到達時刻をt=0 nsとした場合、各スペクトル強度のピークはEUVパルス長さ中の10 nsではなく、30-50 nsの遅い時刻に現れることが分かった。これは、レーザープラズマEUV光源の広帯域に渡る放射の帯域外波長の項がEUVパルス後にもターゲットに照射され、光電離を促していることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画とは一年目と二年目の実験事項を入れ替えた。そのため計画していた帯域外放射のスペクトル計測は未完成であるが、二年目に計画していたEUVアブレーションプラズマの分光計測をほぼ完了した。結果、帯域外波長域光のEUVアブレーションにかかる電離への影響が当初予測していたより遥かに大きいことが示唆され、EUVアブレーションプラズマの特性を理解する足掛かりとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果からEUV光源から到達する帯域外波長の光が水素の電離に大きく寄与していることが示された。次年度にはEUV光源プラズマのEUV波長域-真空紫外波長域の広帯域に渡る分光計測を行うことで、帯域外光の割合、そのスペクトルを明らかにし、水素に照射された場合の光電離プロセスについて明らかにする。 電子衝突電離と異なり光電離の場合はターゲットの原子番号に電離過程が大きく依存するため、異なるターゲット元素の場合のプラズマ特性について調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では一年目に帯域外光分光を行い、二年目にEUVアブレーションプラズマの計測を行うことになっていたが、順序を入れ替えた。そのため帯域外分光を構築するための部品、製作品にかかる差額が生じた。
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