研究課題
筑波大学が中心になり、前年度につまずいていた、等高面法(level-set method)を用いて零点からΣ面(零点から広がる2次元多様体[特異磁気面])を追跡するソフトウェアの開発に注力した。実行中に現れる予期せぬエラーに対処しながら、バグをつぶしていった結果、満足できるΣ面追跡が得られるようになった。このΣ面追跡のソフトウェア開発は工学的にも非常に重要なので、IEE Transactions on visualization and computer graphics誌に投稿した。まだ掲載受理に至ってないが、査読者3名の意見は好意的であった。改良されたソフトウェアを用い、本題である交換型リコネクションの解析を進めた。大域構造を決める零点は南北半球にそれぞれ1個ずつあるが、今回は北半球の零点近傍の解析を行った。南半球から出たΣ面は、昼間側を周ってくるΣ面と夜側を周ってくるΣ面が、北半球の零点から出る2本のγ線(零点から広がる1次元多様体[特異磁力線])上でぴったり重なることを確認した。こうして得られた北半球の零点近傍のΣ面上で、(1)磁力線、(2)沿磁力線電場、(3)Σ面を通過するプラズマの流れを可視化した。交換型リコネクションでは、X line(沿磁力線電場が存在し、磁力線がつなぎ換わるところ)はΣ面上でセパレータ(南北から出る2のΣ面の交線)に直交する向きに現れた。リコネクション前後の磁力線は、このX lineに接する形で零点へ収束する。この形状は、電流がないポテンシャル磁場の場合にはセパレータに接しながら零点に収束するのと対照的である。そして、Σ面の両側にある2つの磁力線がリコネクション時にX lineを介して入れ替わること、これが交換型リコネクションであると判明した。このような磁力線トポロジーは「fanリコネクション」(Priest & Titov, 1996)の一部分と解釈できる。この結果は年度末の研究会等で発表したが、まだ論文にはなっていない。
2: おおむね順調に進展している
Σ面追跡のソフトウェアがほぼ完成したことで、一挙に研究が進んだ。可視化が進み、本課題の「交換型リコネクションのトポロジー」もほぼ解明できたと思う。当初の計画では、交換型リコネクションを表現する数学モデル(速度場の解析的表現など)を構築することを予定していたが、これはすでにある。すなわち、交換型リコネクションはPriest & Titov (1996)が提唱した「fanリコネクション」の亜種であることが判明したので、彼らが用いた解析表現がそのまま使える。
最終年度は、交換型リコネクションのトポロジーに関する新知見を論文化することに注力する。可視化に関してわずかだが問題が残っているので、それを解決しながら論文を仕上げる。それと同時に、Σ面追跡を応用した新たな展開がいくつか考えられる。一例を挙げると、シータオーロラを形成するリコネクションの同定がある。地球磁気圏では、惑星間空間磁場北向き時に朝夕成分が反転すると、シータオーロラと呼ばれる特異なオーロラが出現する。それは特異な磁気圏構造(磁場トポロジー)を反映していると考えられている。惑星間空間磁場が反転する場合、大域的磁場トポロジーは零点4個で構成されると予想される。これをΣ面追跡で調べてみる。また、これは新しい研究課題と考えるべきだが、零点解析の経験を将来的には零線解析へ発展させたい。ただし、零線は零点近傍のテーラー展開で2次以上の項を含めないと出てこないので問題が格段に難しくなる。
代表者・分担者ともに次年度に繰越した直接経費の大部分は旅費である。学会・研究会がオンライン開催されることが多くなったことによる。この傾向が次年度も続けば、物品費やソフトウェア購入費に充てる予定である。
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Earth, Planets and Space
巻: 74 ページ: -
10.1186/s40623-022-01624-3
Journal of Geophysical Research: Space Physics
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巻: 126 ページ: e2020JA028942
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巻: 126 ページ: e2021JA029925
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