研究課題
核融合プラズマの対向材として金属タングステンを用いる場合,プラズマ中にタングステン不純物イオンが蓄積することによる放射損失が問題となる.本研究では,ITERのプラズマ中心部など極めて電子温度の高いプラズマ中に分布すると考えられる高電離タングステンイオンの空間分布計測手法を確立する.実験は核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDで行った.炭素樹脂内に微量のタングステン金属片を封入したペレット(タングステン原子10^17~10^19個に相当)を,中性粒子ビーム加熱により維持された高温(1~4 keV)・高密度(10^13~10^14 cm^-3)の水素プラズマに導入し,ペレット入射後に電子サイクロトロン共鳴加熱を重畳し高い電子温度を維持することにより,高電離タングステンイオンの十分な発光量を得た.今年度はタングステンイオンの可観測価数領域の拡張を目的として,可視(3200~3550オングストローム),真空紫外(250~1050オングストローム),及び極端紫外(5~300オングストローム)にわたる広範な波長領域での分光計測を行った.その結果,タングステン中性原子及び5価,6価,24価~28価,37価,38価,41価~46価イオンからの発光線を同時観測することに成功した.これらの発光線の時間発展を比較することで,単一放電におけるタングステン不純物の挙動を低価数から高価数まで包括的に理解することができるようになった.
2: おおむね順調に進展している
高温プラズマへのタングステン不純物導入,可視・真空紫外・極端紫外の広波長領域分光によるタングステンイオン発光の計測,低価数から高価数までのタングステン線スペクトルデータの取得と,研究の各段階において当初期待していたとおり成果が出ているため,おおむね順調に進展していると評価できる.
プラズマの赤道面に対して垂直方向に空間分解能を持つ分光器を用いて、タングステンイオンの発光強度分布を空間分解計測する.プラズマへの粒子供給や加熱を制御して電子密度及び電子温度の空間分布を変化させ,これらの分布とタングステン不純物輸送の関係を探索する.特にタングステン不純物蓄積を抑制する運転シナリオ構築の観点からデータを整理する.
(理由)当初の予定よりも現有設備を有効活用できたため物品費支出が少なかったこと,及び海外渡航を伴う国際学会参加が不可能であったため旅費支出が無かったことにより,次年度使用額が生じた.(使用計画)次年度には,今年度までに同定されたスペクトルをより明るく観測するために光学系を最適化し,検出効率の向上を図る.極端紫外光用回折格子や較正用スペクトルランプなどの光学機器購入費,複数種の炭素樹脂を母材としたペレットの製作費,ガスケット他真空部品とケーブル,コネクタ他電子部品の購入費を物品費として計画している.研究成果は国際学会及び国内学会で発表し,論文化する.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Plasma Science and Technology
巻: 23 ページ: 084002~084002
10.1088/2058-6272/abfd88
Atoms
巻: 9 ページ: 69~69
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