研究課題/領域番号 |
20K03900
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
徐 ぎゅう 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (90273531)
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研究分担者 |
宮本 光貴 島根大学, 学術研究院理工学系, 准教授 (80379693)
時谷 政行 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (30455208)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タングステン合金 / 重水素 / ヘリウム / 照射欠陥 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に計画したMoとZrを別々に添加したW-Y2O3合金について、水素同位体のリテンションに及ぼすFeイオン予照射の影響、とヘリウムバブルの形成について調べた。試料はW-1wt.%Mo-0.25wt.%Y2O3とW-0.1wt.%Zr-0.25wt.%Y2O3であった。これらの試料と予めに1MeVのFeイオンで最大4x1018/m2まで照射した試料に5keVのD2イオンを最大1022D2/m2まで照射した。その後に、昇温脱離ガス分析法(TDS)によりD2放出の温度依存性を調べた。Mo/Zrを添加したW-Y2O3においては、D2放出量はFe予照射に関係なく、D2の照射量の増加と共に増加した。W-Y2O3に比べ、Fe予照射がないMo/Zr添加材のD2放出量が高かったが、Fe予照射をすると、Mo/Zr添加材のD2放出量は減少した。Moの添加することによって、照射中の転位ループの形成を促進した。また、MoによるY2O3ナノ粒子の粗大化が観察された。これに対して、Zrの添加はY2O3ナノ粒子を微細化した。従って、Mo/Zrの添加により、試料表面から内部へのDの拡散が抑制された。この成果を論文にまとめ発表した。 また、これらの合金を773K、973K及び1173Kで5keVのHeイオンにより1.8x1021/m2まで照射を行った。各温度ですべての合金においては、Heバブルの形成が観察された。バブル形成に必要な照射フルエンスは照射温度と合金の組成に依存する。773Kで、MoまたはZrを添加したW-Y2O3のボイドスエリングがW-Y2O3よりわずかに減少した。これはHeの分散の結果である。一方、973K、特に1173Kでは、MoまたはZrを添加した合金のボイドスエリングが高かった。He照射結果をまとめた論文が受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度に計画したMoまたはZrを添加したW-Y2O3おける水素同位体のリテンションの評価、W-Mo-Y2O3とW-Zr-Y2O3合金のヘリウムバブル形成について予定通りに実施した。その成果を論文として発表した。両合金については、試料表面から内部へのDの拡散が抑制されたこと、とHe照射によるボイドスエリングの低下が確認されたが、W-Y2O3より大幅に改善されたことを見られなかった。従って、MoまたはZrを添加したW-Y2O3における水素同位体のリテンションの評価及び耐He照射性能を調べるため、もっと高い照射量のDまたはHeの照射が必要である。 また、W合金の候補の一つ、W-Zr-Y2O3の最適な組成、合金組織の熱安定性、力学特性について調べた。さらに、核融合炉対向材における中性子照射による損傷が材料の力学特性の劣化にもたらすため、中性子照射実験が重要である。本研究では、中性子の代わり重イオン照射を行う。W、W-Y2O3、W-Mo-Y2O3とW-Zr-Y2O3の力学特性に及ぼす高温照射の影響を調べるため、1073Kでの高温Cuイオン照射とその後の超微小硬度試験の予備実験を行い、実験実施状況の確認をした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度の計画としては、W、W-Y2O3、W-Mo-Y2O3とW-Zr-Y2O3の4種類試料に対して、高温で高フルエンスのDとHe照射を行い、高温プラズマによるW及びW合金の損傷を調べる。W-Y2O3のMoまたはZrの添加効果を明らかにする。 また、これらの4種類試料の力学特性に及ぼす高温重イオン照射による影響を調べ、添加元素効果を解明する。 本研究の最後に、これまでの研究成果をまとめ、核融合炉プラズマ対向材にふさわしい材料を提言したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に、コロナで予定した国内学会と国際会議の参加ができなかったため、出張旅費の節約ができた。来年度に、当課題に関係する消耗品の購入及びイオン照射実験の出張旅費として使う予定である。
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