研究課題/領域番号 |
20K03902
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
薮内 敦 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (90551367)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 原子空孔 / 欠陥複合体 / 陽電子消滅 / 第一原理計算 / 陽電子寿命 / 電子運動量 |
研究実績の概要 |
タングステン中の原子空孔に複数個の侵入型不純物原子(X = H, C, N, O)が結合した欠陥複合体(V-nX)の陽電子寿命の変化を第一原理計算を用いて調べた。空孔にH原子が結合していく場合では、欠陥複合体の陽電子寿命はH原子の結合数の増加に伴い単調に減少していくことがこれまでに報告されており、本研究における計算でも同様の結果が得られた。C原子についてもH原子と同様の傾向であった。H原子やC原子は空孔周囲の八面体中心位置に入るため、結合原子数の増加に伴い空孔体積が減少していき、陽電子寿命の変化はそれを反映しているものと考えられる。一方でN原子の場合では、1個目、2個目のN原子はH原子と同様に空孔周囲の八面体中心位置に入るが、3個目以降のN原子は空孔周囲のW-W原子間位置に入るほうが安定となり、その結果として空孔体積を押し広げることが明らかになった。そのためV-nN欠陥複合体の陽電子寿命もn=2までは結合原子数の増加に伴い減少していくが、n=3以降では陽電子寿命の増大に転じることが見出された。言い換えると、N原子のような空孔への結合により空孔体積を押し広げる効果を持つ元素の場合では、陽電子寿命の変化だけからでは空孔に結合している不純物原子の数を知ることはできないことが示された。V-nO欠陥複合体においても、n=5までは陽電子寿命は結合原子数の増加に伴い単調に減少するが、n=6では6個目のO原子はW-W原子間に入り空孔体積を押し広げるため陽電子寿命は増大に転じることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
W中の原子空孔にH, C, N, O原子が複数個結合した欠陥複合体での陽電子寿命の変化を第一原理計算を用いて調べた。不純物原子の空孔への結合位置によっては、欠陥複合体の陽電子寿命は結合原子数の増加に伴い単調に減少するわけではないことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
空孔に結合する原子がN原子やO原子の場合は陽電子寿命の変化だけからでは空孔に結合している不純物原子の数を知ることはできないこと、また陽電子寿命だけからでは空孔に結合している元素を知ることはできないことが、これまでの計算から示すことができた。今後は実際の電子線照射W試料の陽電子消滅測定を行い、陽電子寿命・電子運動量分布の計算値との比較から欠陥種解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
R2年度予算で取得できなかった計測機器用電源をR3年度に取得した。R3年度に予定していた陽電子線源の取得は取りやめ、陽電子消滅測定には現有の陽電子線源を用いる計画に変更する。次年度使用額分と翌年度分助成金は試料熱処理のための機器購入に使用する計画である。
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