研究課題/領域番号 |
20K03918
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研究機関 | 足利大学 |
研究代表者 |
安藤 康高 足利大学, 工学部, 教授 (60306107)
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研究分担者 |
西山 秀哉 大阪大学, 接合科学研究所, 招へい教授 (20156128)
田中 学 大阪大学, 接合科学研究所, 教授 (20243272)
茂田 正哉 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (30431521)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズマ溶射 / 熱プラズマ / CVD / 酸化物半導体 / 光触媒 / 旋回流プラズマ / 酸化チタン |
研究実績の概要 |
本研究では、新規に開発した旋回流プラズマジェットを用いたSPPS装置を用いて、従来の機能性薄膜形成プロセス(CVD、PVD、噴霧熱分解法など)により形成された薄膜と同等の品質を有する薄膜の低温かつ高速合成を、大気雰囲気下で行う。高速合成プロセスでは、熱プラズマを用いたサスペンション溶射(SPS)が、薄膜の微細組織制御に成功していることから、本研究のSPPSは、上流側熱プラズマで燃焼炎合成によるTiO2微粒子合成、下流側熱プラズマで合成したTiO2微粒子の溶融および基板上への輸送を行うことにより、SPSに準じた薄膜形成を可能にし、実用的なTiO2半導体薄膜の高速合成を図る。 IGZOやTiO2などの酸化物半導体薄膜は、製造中の雰囲気中の酸素による影響が少ないことから、噴霧熱分解法など大気プロセスによる製造が実用的に行われている。しかし、熱化学反応主体の噴霧熱分解法では、基板を高温に保つ必要があり、基板の熱的ダメージを考慮する必要がある。 そこで本研究では、液相出発原料噴霧ノズル出口に旋回熱プラズマ流発生装置を取り付けた液相前駆体プラズマ溶射(Solution Precursor Plasma Spray; SPPS)装置を世界で初めて開発し、酸化物薄膜の更なる低コスト化を実現する。旋回流熱プラズマ発生装置はタンデム型になっており、上流側熱プラズマでは噴霧された出発原料の燃焼炎合成によるTiO2微粒子形成、下流側熱プラズマではTiO2微粒子の溶融および基板上への輸送を行うことにより、実用的なTiO2半導体薄膜の高速合成を可能とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、タンデム型旋回流プラズマトーチの試作をを行い、チタニウムテトラブトキシドを出発原料に用いた酸化チタン薄膜形成実験に着手している。 タンデム型旋回流プラズマトーチは、上流と下流に1台ずつ旋回流プラズマトーチ(以下、上流トーチ、下流トーチ)が設置されており、当初の予定では、2020年度に下流トーチのみを製作し、微粒子溶融能力の模擬評価を行う目的で、市販の酸化チタン溶射粉末を用いた溶射実験を一年かけて行うことになっていたが、旋回流形成ノズル内部でのプラズマの熱損失を軽減することにより溶射粉末を溶融状態で基材に輸送することに成功し、2020年度中にタンデム型旋回流トーチの製作を開始することができた。 タンデム型旋回流トーチについては、2台のプラズマトーチを1つのノズルに取り付けるため、ノズルの過熱による溶融やアーク干渉によるプラズマの不安定化が懸念されたが、製作したタンデム型旋回流プラズマトーチを、3分間連続運転した結果、これらの問題はいずれも発生せず、溶射実験に耐えうるトーチを製作することができた。なお、連続運転の際の上流トーチ作動条件は、作動ガスAr (流量 1 SLM)/N2 (流量 1 SLM), 放電電力 100V/ 25A, 下流トーチ作動条件は、作動ガスAr (流量 20 SLM), 放電電力 200V/ 50Aである。 以上の結果から、おおむね順調に研究を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上流トーチの微粒子合成条件および、下流トーチの微粒子溶融条件の最適化を行い、その最適条件を軸に皮膜形成条件の各パラメーターを変化させることにより、各パラメーターの熱流動場、皮膜構造及び皮膜特性に及ぼす影響を詳細に調査するとともに、皮膜形成メカニズムの解明にも取り組む予定である。 変化させるパラメーターとしては、溶射距離(タンデム型プラズマトーチ先端-基材表面間距離)、基材温度、出発原料濃度、出発原料供給速度、旋回流形成ノズル形状(特に出口径)、上流トーチ-下流トーチ間距離、上流・下流各トーチの作動ガス(使用するガス種は、Ar, N2, Airを検討中)、作動ガス流量、放電出力を考えている。 皮膜形成メカニズムについては、微粒子の溶融凝固と前駆体の基材上での結晶化が想定される。過去の研究代表者の研究結果から、前者は高強度皮膜が形成され、後者は低強度皮膜となるため、前者のメカニズムによる皮膜形成条件が最適条件となる。そのため、溶射パラメーターが形成された皮膜に及ぼす影響から皮膜形成メカニズムの推測を随時試みるとともに、発光分光法によるプラズマ診断や数値シミュレーションにより、推測した皮膜形成メカニズムの信憑性を判断する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、出席を予定していた国際会議が中止もしくはオンライン開催になったため、2020年度の旅費を物品費等に転用させていただいた。具体的には、レンタルを予定していたパーティクルカウンターの購入や、自作予定であった粉末供給装置の購入などに充当した。 その結果、残金が15万円超となったが、2021年度には、2020年度の実験結果を踏まえて新規にタンデム旋回流プラズマトーチ用ノズルを製作し、特に旋回流形成ノズルの形状の皮膜に及ぼす影響について詳細に調査する事を考えているため、ノズル製作費への転用が今後の展開を考えるうえで最適と判断したため、次年度に使用させていただくこととした。
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