研究課題/領域番号 |
20K03920
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
篠原 正典 福岡大学, 工学部, 教授 (80346931)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | HPPS/HiPMS / カーボン膜 / スパッタ堆積 / プラズマ化学気相堆積 / 赤外分光 / ラマン分光 |
研究実績の概要 |
薄いシリコン基板内部で赤外で光を多重反射させてシリコン基板表面での赤外光の反射回数を増大させることにより基板表面での検出感度を向上させた「多重内部反射赤外吸収分光法」でカーボン膜の成膜メカニズムを調べてきた。従来この方法をプラズマCVD法に適用してきたが、大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPMS)と呼ばれる方法での成膜にも適用し、カーボン膜の成膜を原子レベルで解明しようとものである。もちろん、プラズマ気相堆積(PECVD)の成膜メカニズムをしっかり押さえ、その違いを明らかにしようとするものである。。 昨年度まで、チャンバーの横側に設置されたスパッタ源からの飛び出す原子群により、膜が堆積される範囲がターゲット近くに制限され、チャンバー中心部の基板に膜が堆積されにくかった。スパッタをするガスをアルゴンから水素に切り替え、プラズマを生成するパルス電力のパルス幅パルス最大電力を大きくして供給電力を大きくし、プラズマの広がりを大きくすることを試した。プラズマは基板が設置されたチャンバー中心部まで達し、膜が基板上に堆積させることができた。そこで、赤外分光法で調べたところ、膜中の水素量が少ないため、スペクトル中のピークがはっきりしない。しかし、ラマン分光で調べたところ、アモルファス炭素膜に特異的に表れるDピーク、Gピークが観測された。この2つのピークは、プラズマCVD法で堆積された膜で観測されたスペクトルと比べると、Gピークが大きいため、スパッタ膜ではクラスターを形成しながら膜が堆積されている可能性があることがわかった。一方、プラズマCVD法では気相から炭素の2量体(C2)が膜堆積に重要な役割をしていることも明らかにできた。さらに、スパッタ成膜中の基板温度を高温にすることにより、グラフェンへ膜の構造が変化させることが可能なことも示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大電力パルススパッタリング(HPPS)/大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPMS)と呼ばれるスパッタ法によるアモルファス炭素膜を堆積させることが目的であった。ここで、炭素板のスパッタターゲットから膜堆積ができるのならば、1層の膜の原子層の成長ができるのではないか、平面上の2次元成長ができれば、グラフェンが成膜できるのではないかとの思いついた。そこで、スパッタで成膜しながら、900℃までの基板加熱を行ったところ、驚いたことに、600℃以上の基板温度でグラフェンを成長させることができた。しかもそのグラフェンはラマンスペクトルからみると比較的すぐれた特性を示している。まったく期せずして、スパッタ成膜を用いた低温グラフェン成長の道を拓いたものと考えられるため。
|
今後の研究の推進方策 |
カーボン膜がチャンバーの中心部で堆積させることができたため、このチャンバーに専用の光学系を組み込み、その場・実時間計測を行い、研究を完結させていく。また、プラズマCVD法とスパッタ膜では、それとともに、プラズマから供給され膜の前駆体となる炭素の化学種がC2やC2Hをはじめとする炭素の2量体であるのに対して、スパッタでは2量体の炭素もあるが、CやCHなど炭素原子が1つの化学種が前期体となる可能性を見出している。この考察を深めるため、プラズマ中の計測も引き続き行っていきたいと考えている。もちろん、この一連の研究で得られた成果を引き続き研究発表により社会還元していくとともに、論文執筆も行い、広く社会に還元していきたい。 本研究では期せずして得られたグラフェン成膜の成功ということも踏まえて、欠陥の少ない単相グラフェンの成膜も行い、次世代半導体デバイスの配線材料としてのグラフェン成膜の方法を探求していきたい。特に、Si半導体デバイスでの不純物領域の再拡散が抑制できる600℃以下での低温成膜に注目している。この点についてもスパッタ源へ与える電力を大きくすることによりスパッタ粒子のエネルギーを大きくするなど、基板加熱以外でのエネルギーの供給法を検討し、基板温度の低減にも取り組みたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で出張が制限されてしまったことにより、旅費の支出ができなかった。さらに、出張先で、本研究に適した物品の購入について、優れた先駆的研究を行っている研究者など様々な有識者と検討するはずであった。そのため、出張費だけでなく、物品の購入についても遅延が出てしまった。 コロナ禍が収まったので、早急に打ち合わせと物品購入を行い、研究を進めていきたい。すでに、共同研究者を招致するなど、研究打ち合わせを開始しており、これ以上の遅延はなく研究が進むものと考えられる。
|