研究課題/領域番号 |
20K03926
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早川 雅司 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (20270556)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミュー粒子 / 異常磁気能率 / QCD / 格子ゲージ理論 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
ミュー粒子の異常磁気能率の理論において弱い相互作用の寄与として分類されるものも、クォーク・ループを介して強い相互作用の量子効果を帯びる。現時点ではこの効果の重要性について場の理論に基づき調べられていないため、理論値、及び、昨年度公表された新たな実験値と理論値との差は潜在的な不定性を有していることを否定できない。この種の寄与(電弱-ハドロンの寄与)について最初の格子QCD計算による結果を得るため、局所的axial-vector/vector current演算子の繰り込み因子の計算に着手した。電弱-ハドロンの寄与は、クォーク・ループの寄与とレプトン・ループの寄与の総和である。提案方法は、QCD相互作用していない擬似的クォーク・ループとの総和を数値的に求める、というものである。この方法が機能するには、繰り込み因子の不定性が相関関数に比べて十分無視できるほど正確に計算可能であることが要求される。より重いクォークほど量子効果が小さくなることを念頭に置いた別の計算方法案を検討するため、質量の異なるクォーク・ループを組み合わせた量に着目し、計算を実施した。 Hadronic Light-by-Light scattering(HLbL)の寄与に関しては本事業で格子QCDによる最初の計算結果を発表した。その後、他のグループが独立に行った研究の成果を発表し、両者は違いに整合性が取れているため、本年度は別の方法による計算は一時停止して、より大規模なシミュレーションが実行可能となり次第再開することにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
QCDにより光-光散乱振幅を介して誘導される寄与(HLbLの寄与)に関しては、3種の軽いクォーク(アップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォーク)の質量が等しくなる極限でも消えない寄与を初めて格子QCD数値実験で計算し、その結果は模型計算の結果と整合することが分かった。その後ドイツの研究グループが独立の計算結果を公表し、自分らとの結果とほぼ同じであることが分かった。これらの成果が反映されたミュー粒子の異常磁気能率の理論値が、2021年度初めに公表された実験値と比較された結果、理論値・実験値との間のずれが再確認された。強い相互作用による光-光散乱から誘導される寄与(HLbL)に関しては、ミュー粒子・光子の部分を連続理論・無限大体積で用意する、という別の計算方法に移行することを模索している。その有効性は、これまでよりも大規模な格子による数値計算で実験することにしたため、環境が整うまでそれは一時的に停止している。 弱い相互作用と強い相互作用が共に関与する寄与(電弱-ハドロンの寄与)に関しては、計算コストが低い局所演算子を含む相関関数を介して得る上で確認すべき事項の分析を進めている。提案方法は、強い相互作用をする粒子のループからの寄与、しない粒子のループによる寄与、これら両者における短距離からの寄与が正確に計算できることを前提にしている。このような課題申請時に提案した方法が機能するかを判断する基準に対する方針がまだ固まっていない。この点についての現時点は「今後の研究の推進方策」で述べる。
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今後の研究の推進方策 |
強い相互作用による光-光散乱から誘導される寄与(HLbL)に関しては、別の方法による計算・未着手のFeynman図からの寄与の計算共に、より大規模なシミュレーションの準備が整い次第再開することにする。我々のグループが未着手のFeynman図による寄与に関しては、ドイツの研究グループが2021年度に計算結果を公表した。先手を打つことができなかった点、また、それらは極めて小さいと結論している点を踏まえて、電弱-ハドロンの寄与の計算より優先順位を低くし、準備を進めている大規模な計算の一貫として遂行することにした。 ハドロン模型やクォーク模型による電弱-ハドロンの寄与の評価値は、2021年度に更新されたミュー粒子の異常磁気能率の理論値と実験値の差に比べて小さい。しかし、これらの模型計算が電弱-ハドロンの寄与における強い相互作用の非摂動力学効果の本質を反映しているかに関しては、格子ゲージ理論などの場の理論に基づく分析を実際に行って判断する必要がある。理論・実験間のずれが電弱-ハドロンの寄与の大きさの過少評価によるものなのか否かについて正しい結論を得るために、計算上で懸念される点を引き続き丹念に調べていく。同時に、現在進めている局所演算子を使う計算に加えて、(擬ベクトルに関しては部分的に)保存するカレント演算子を用いる計算の両方を行うなど、結果の妥当性の判定基準の最適化についても並行して検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
調達を見込んでいるCPUを搭載する計算機が今年度中に発売開始されなかったため、購入を次年度へと見送った。秋までに販売されない場合にはその段階で入手可能なものを調達することもある。昨年度当初からすでに渡航予定先および所属機関の双方の規制により出張ができなかったため、旅費分の支出は0となった。この点は研究打ち合わせを大きく妨げおり、研究の遂行に多大な支障をもたらしている。旅費の使用と研究目標すべての達成に関しては予測できないが、双方の国の待機期間が不要となっているため、機関の規制解除を想定して渡航を計画する。
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