研究課題/領域番号 |
20K03931
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
藤 博之 大阪工業大学, 情報科学部, 教授 (50391719)
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研究分担者 |
樋上 和弘 九州大学, 数理学研究院, 准教授 (60262151)
村上 斉 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (70192771)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 行列模型 / ファットグラフ |
研究実績の概要 |
本年度の研究では主に,(1)複素幾何と行列模型との関係についての検討,(2)ファットグラフの応用的側面に関するテーマを調べた.また,弦の場の理論との関係を探るため,(3)Masur-Veech体積の物理的解釈についても研究を進めた. (1)に関する研究は,複素幾何の研究において知られる,Bergman核の漸近展開とDonaldsonの量子化と呼ばれる解析に現れると行列模型との関係について調べ,拡張されたノーマル型行列模型によって記述されることが明らかとなった.これに類似の行列模型はBerman氏によって近年盛んに研究が進められている.本研究の主眼であ位相的漸化式や幾何的漸化式を用いて,この拡張されたノーマル型行列模型の解析がどこまで行われるかについて検討を行い,先行研究をもとにDonaldsonの量子化と行列模型の漸近解析との関係を探る方向の研究を開始した. (2)のファットグラフの応用的側面に関しては,タンパク質の構造予測問題への応用について研究結果をまとめ,論文として提出した.(現在査読中.)タンパク質の主要な構造として,αヘリックス構造とβシート構造があり,これらの組み合わせによってタンパク質全体の構造が決定される.先行研究では,タンパク質のペプチドユニットの回転角のデータがPDBをもとに構築されており,このデータに基づいてタンパク質をファットグラフとして表し,そのトポロジーを解析することが可能となる.本年度の研究では,PDBのタンパク質に対してファットグラフの種数の分布を解析し,構造予測のための一つの指標として有用であること検証した. (3)のMasur-Veech体積については,近年研究が進んでいるWeil-Petersson体積とJT重力との関係をもとに,非臨界弦の場の理論のScwinger-Dyson方程式によるその物理的解釈に関する検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナの影響を受け海外の研究所に滞在して共同研究者と集中的に議論を行うことができなかったことが原因として挙げられる.また,所属大学の業務量がコロナ対応などもあり当初の想定以上に多くなり,研究を行うための時間を確保することが極めて困難な状況に陥ってしまった.今後は,研究時間をできる限り確保して,本研究を推進したいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性としては,次の三つの側面について研究を進める予定である.(1)Masur-Veech体積の漸化式に関する物理的解釈のまとめ,(2)Donaldsonの量子化に基づく拡張されたノーマル型行列模型の解析,(3)行列模型の応用的側面の解析. (1)については,前年度に検討した内容を形にするため,特にMasur-Veech体積の漸化式から導かれる位相的漸化式と,弦の場の理論のSchwinger-Dyson方程式との比較を行い,その解釈を明確にする研究をまとめる.さらにJT重力との関係を探り,行列模型の枠組みを超えてスペクトル曲線の観点から弦の場の理論や量子重力理論の定式化を探る. (2)については,ノーマル型行列模型の漸近解析についてForrester氏らの方法を基に具体的解析を行い,Donaldsonの量子化に付随するKlevtsonらが提唱した1次元複素射影空間のBergman計量の空間を行列固有値の空間として実現できる行列模型の漸近解析を進める予定である.さらにこの解析を基に,Berman氏の提唱するモデルについて具体的に解析可能なFano多様体に対して具体的な漸近解析を実行し,K-安定性と物理的手法が複素幾何にもたらす可能性についてさらに検討したい. (3)については,タンパク質の解析の他に,ニューラルネットワークなどについても行列模型の応用の可能性を探求する予定である.特に,タンパク質の解析については継続して南デンマーク大学の研究グループと共同で研究に取り組む予定である.今後は特にファットグラフとして表すために必要なペプチドユニットの相対的な回転角に関するデータをPDBから取り出す作業を進め,独自のデータベースの作成を目指す予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で海外渡航が制限されていたこともあり,海外の共同研究者が所属する研究機関への出張が全くできない状況であったことが主な理由として挙げられる.コロナが終息した段階で当初予定していた研究のための出張を行い,さらに研究会が対面で行われるようになった際には,研究成果発表のための出張を行う予定である.
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